177 資料室前
この横倒しの円柱世界の端‥‥そこの淵の円に窓のようなものがたくさん見える。門があり、そこには四人程の人間が立っており、人の背丈の倍以上ありそうな二脚式のロボットの姿もある。それだけではなく、正面の塀のまわりには、自動認識攻撃型の銃も配備されている。
仮想世界の管理局の護衛‥‥と一括りにするにはあまりにも大袈裟だ。これはいよいよ、あの仮説が正しいと証明されてくる。
「‥‥さすがにあれは骨が折れるわね。何とかなる?」
「‥‥やってみます」
クロウが衛士の一人に詰め寄り、何かを話している。するとすぐにクロウが手招きした。
「‥‥‥‥」
リシャンは用心深く近づいた。武器はいつでも出せるようにスタンバイしておく。
「了承が取れましたので、中へと入ります」
「‥‥‥‥」
リシャンは門の間を通り抜ける。もし彼らを相手にしなければならなかった場合、奥へと侵入出来る可能性は限りなく低い。
「‥‥ふう」
ゲートが一瞬だけ開いたが、それは一人分だった。リシャンはクロウの後ろにぴったりと密着して通過する。
「‥‥‥‥」
中は窓の無いただ延々と通路に扉のある建物だ。天井自体が淡く光っているので薄暗さは感じないが、閉じ込められているような閉塞感は半端なく襲ってくる。入口から奥までどれほどの長さがあるのかは分からないが、果てしなくどこまでも続いている。
「‥‥私も中に入ったのは初めてなので、内部構造がどうなっているのかまでは分かりません。これからは同時に調査をしながらの移動になります」
「あなたのIDが使えるんじゃない?」
「‥‥それもどこまで有効なのかは定かではありません。本来は私が来る所ではありませんし」
「じゃあ、何て言って通ったの?」
「それは‥‥局長に見せたい資料を持ってきたと言って、内容は極秘にしたのです。ですので、早くしないとばれる可能性があります」
「‥‥結構ザルね」
「そのおかげで我々はここにいられます」
クロウは肩をすくめてまた歩きだす。
「やっぱり局長っているのね」
「いるんじゃないですか? 局と言ってるからにはまとめる者がいるはずです」
「‥‥‥‥」
ここにきてクロウの意外な性格が分かってくる。
彼は意外と適当で場当たり的だ。
「‥‥ここが資料室のはずです」
「‥‥‥‥」
立ち止まったのは一つの扉の前。他の扉と全く同じ。名前札も何もついていない。ただ取っ手だけが付いている。
クロウがドアノブに手をかけた。
ノブは回転したが。
「‥‥開かない」
「‥‥‥‥」
さすがにそこまでセキュリティーが甘くはなかったらしい。こうなったら無理矢理こじあけるしかないが、その場合、すぐにアンチウイルスが飛んでくる。調べる時間が限られてしまう。塔の時とは違い、ここでは十分に時間が欲しい所だ。
「あ!」
「!」
クロウが声をあげた。リシャンは武器を出しそうになったが。
「これは引き戸でした」
「‥‥‥‥」
クロウはそう言ってドアを引っ張ると、ドアは音もなく開いた。
部屋の中は白い光で眩しく、中に入ってもしばらくは目が慣れるのに時間がかかりそうだ。
「では‥‥入りますよ」
「‥‥‥‥」
リシャンが大きく頷くと、先にクロウが中へと入る。
この中に全ての真実がある‥‥胸に手を当てる。
ここに至るまで出会ってきた多くの人がこの胸の中にいる。彼らと共にリシャンは一歩を踏み出した。




