176 世界の外側
二人は歩きだす。道はクロウが知っているので、リシャンはついていくだけだ。
「もしアンチウイルスのようなものが起動した場合、その対処はお願いします。私にはその辺の能力はありませんので。ですが、くれぐれも迂闊な行動は慎んでください」
「了解」
「‥‥本当ですよ。目立ってこちらに注力されたらやっかいな事になるので」
「分かってるって」
リシャンはクロウの胸を拳でトンと叩いた。
「‥‥‥‥」
クロウはため息をついてから、また歩きだす。
「‥‥‥‥」
リシャンは顔を正面に向けたまま、視線だけを素早く周囲に張り巡らす。
一見、無人の街にも見えるが、建物の中には人の気配がある。それだけではなく、時々人ともすれ違う。彼らは同じようなデザインの灰色の服を着ており、それから見れば奇抜な格好に見えるようでジロジロと見てくる。認識阻害を使ったが効果はまるでない。
車‥‥というか、ガラスのドームの様なものが移動してきて、中には数人が乗っている。運転している形跡がないのは、全てが自動化されているのかもしれない。
「つまり‥‥」
管理局の為だけの仮想世界ならば、そんな無駄な事はしないはずだ。そしてそれとは別にリアルに管理局があるのもおかしい。それがあるなら、手間ひまかけてこんなものを構築する意味がない。管理局は意味というものを最も重要視する。恐らくはこの推測は当たっているだろう。
「‥‥‥‥」
横倒しになった円柱状のこの世界の外は、何のテクスチャーも無い、無の空間が広がっている。ここの住人にとって世界はこの狭い箱庭の中だけだ。彼らはその事を知っているのだろうか? 自然というものがないここは、013のような快適さは無い。わざわざ希望してここに住みたい人間はいないだろう。
つまりここは唯一無二の場所‥‥仮想世界管理局に間違いない。
ここが仮想世界で、統合政府も超巨大AIの集合体でしかないとするなら‥‥実際にリアルで生活している人は何処にいる?
「‥‥‥‥」
リシャンは立ち止まった。
「どうかしましたか?」
「‥‥ちょっとね」
「?」
リシャンはクロウをじっと見つめた。
「クロウは何か知らない? リアルの人間の人口とか、場所とか?」
「詳しくは知りません。私が知らされているのは任務に関してのみでしたから」
「‥‥それにしては訳知り顔みたいな感じでいたじゃない」
「そんなハッタリでもしないと、あなたは言う事を聞いてくれませんでしたからね」
「‥‥ふふ」
そんな軽口を叩いている間に、クロウと離れて再会した今までの隔たりのようなものが、少しずつなくなってきているのを感じた。
「ですので、あなたに話した事が私の知っている全てです。リアルで生活している人間の数はそう多くはなく、その中で希望者だけが仮想世界で暮らしています」
「‥‥リアル生活者ね」
「‥‥何かひっかかりますか?」
「ちょっとね」
一つの可能性が浮かんできた。が、それはあまりにも究極的な話だ。それを証明する手立てはないが、状況証拠的には結論はそこに集約されていく。
「あそこです」
「‥‥‥‥」
クロウに言われてリシャンはその指さされた方向に目を向ける。




