174 唯一の方法
「‥‥‥‥!」
地響きが起こった。リシャンは姿勢を低く保つが、ビルのあちこちが倒壊してきている。
=リシャン、あなた達がやりすぎたのです。本来ならここまで歪むとは想定はしていなかったのですが‥‥この仮想世界はじきに崩壊します=
「‥‥そう」
ならば一旦、シャオティン達を連れて元の場所に戻るしかない。
リシャンはシャオティンが倒れている場所まで戻ったが、クロウもついてきた。
=おお、リシャン! やったんだな!=
「‥‥当たり前でしょ。それよりも、この世界はもう駄目みたい‥‥」
シャオティンは横になったまま動かない。
そうしている間にも揺れが起こる。段々強くなってきているようだ。
「ここから戻って‥‥」
クロウが途中で言葉を遮る。
=残念ですが、それは無理です。013とは完全に切断されています。013だけではありません。この仮想世界は他の仮想世界との繋がりを持たないスタンドアローンの世界。戻る手段はありません=
「じゃあ、ここで皆で一緒に消える? そんなわけにはいかないでしょ?」
=一つだけ手はありますが‥‥=
「‥‥‥‥」
=本意ではありませんが‥‥他の仮想世界に移動できないとすれば、方法は一つ‥‥この仮想世界を作っていたサーバーに潜り込む事です=
「それって‥‥」
=あなた方が目標としている管理局サーバーの事です。まだ私のIDが有効だと思うので、そこから侵入出来ます=
一際大きな揺れが起こり、遠くの巨大なビルが倒壊した。
「クロウ‥‥なぜあなたがそんな事を?」
=私だってまだ死にたくはありませんから‥‥=
カラスの体が光りだす。光は大きくなり、やがて一人の人間の姿を形作った。
「やはりこちらの方がいい」
黒いスーツを着た黒髪の青年‥‥クロウは一瞬で人に変わった。
「それに‥‥」
かなりの高身長で、リシャンを上から見下ろす。
「私はもうあなたを失いたくはありません。ですので、危険に首を突っ込まないようにあなたを説得するのは諦めて、最初から協力する事にしました」
「‥‥クロウ‥‥」
どう反応して良いか分からず、リシャンは他に言葉が見つからない。
「私も‥‥人間ではありません‥‥あなたと‥‥あなた達と同じAIです」
クロウは頭を下げた。
「とにかく今は‥‥」
クロウは手を宙に翳す。そこには見た事のある暗黒の穴が開いた。
「さあ、急いで! もうここは長くは持ちません!」
リシャンはシャオティンの側に寄った。肩を担ごうとしたが、
「‥‥‥‥」
途中でおろした。
「‥‥さすが‥‥ね‥‥私はもう‥‥移動には耐えられないから」
「‥‥‥‥」
クロウの顔を見たが、クロウも顔を曇らせただけだった。
「私の‥‥想いも受けとって‥‥リシャン」
「それは自分でやって!」
リシャンはそう言い放ち、穴の前に立った。
「サーバーに侵入したら、すぐに戻ってくる。それだけの話!」
「‥‥‥‥ふふ」
「レイブンはどうする?」
=俺はここに残る。シャオティンのパートナーとして見届けなければならないからな=
「‥‥‥‥」
リシャンは唇を噛みしめ、穴に向かった。
「絶対に何とかするから、諦めないで!」
=分かった、リシャンも気をつけろよ=
「当然!‥‥」
リシャンは込み上げる想いを押さえる為に大きく息を吸い込む。
「さ、行くわよクロウ!」
「了解です」
リシャンが穴に入り、クロウが続いた。
直後に揺れが地面に大きくヒビ割れを作った。ヒビの奥には何も無い。ただの無が広がっているだけだ。
=さて‥‥どうなるものだか‥‥=
「‥‥リシャンが‥‥心配?‥‥」
=当然だが‥‥シャオティン‥‥何をそんなやり切った顔をしてる?‥‥戻るまでが任務だと教えたはずだ=
「ふふ‥‥私は‥‥不出来の‥‥弟子だった‥‥から‥‥」
天井が裂けていく。暗黒の闇がゆっくりと落ちてくる。
=‥‥‥全く、なってない!‥‥この馬鹿者が=
レイブンはシャオティンの上に乗った。
「あとは‥‥頼んだわよ‥‥リシャン‥‥」
直後、時間も空間も無い闇が世界を包んだ。




