172 確信という罠
二人の刃が重なり合う度に、周囲の壁が圧力で抉れていく。
「はあっ!」
手前の鉄柱を巻き込み、青色の刃が黒衣のリシャンを捉えたかに見えたが、リシャンは首を傾けた最小限の動きで避ける。
「しまった!」
「‥‥‥‥」
かわされた赤鎧のリシャンは、逆に大きな隙を作ってしまった。が、黒衣のリシャンの武器はリーチこそ長いがこのような超接近戦では逆に不利になるはずだ。そう確信して体をひねって体勢を整えようとしたが、
「甘い!」
それより早く鎌の刃の短い方で胸を打たれた。
「‥‥かはっ!」
バク転して追撃してくる鎌の刃を蹴り上げて止めた。そこまでは予想していなかったらしく、黒衣のリシャンはよろめく。
「!」
二人は同時に相手との距離を取った。
「‥‥はあはあ‥‥」
戦乙女のリシャンは、額から流れてきた血に片目を閉じる。シャオティンとの戦いからの連戦でダメージが蓄積されている。このまま戦い続ければこちらが不利になっていく事は明らかだ。
認めたくはないが、あの偽物は高い技量を持っている。
「‥‥上等じゃない」
だとしても負けてやらなければならない義理はない。相手が格上だとしても何か方法があるはずだ。
「‥‥‥‥そうか」
シャオティンはあの時、格上だった自分を追い詰めた。
危険な賭けだが、同じ方法をとれば良い。
絶対に負けるわけにはいかないのだから。
「‥‥‥‥」
シャオティンにやられた左肩がしびれてきた。うまく使えそうもないので盾は捨てた。
身軽になった所で狙いを黒衣のリシャンの胸に定める。
この遠距離からこのまま突進していけば、彼女はこちらの狙いを察して的確に防ぐはず。そしてその隙を狙ってさっきのようにカウンターを打ち込んでくる。
それこそが真の狙い。
「‥‥ふふ」
リシャンは口元の血を拭い、笑みを受かべながら剣の切っ先を向けたまま高速で向かっていった。
「覚悟!」
「‥‥‥‥」
思った通り、回避しない。動きを読んでいると思っているのは確実。黒衣のリシャンは棒の柄で剣の軌跡を反らした。
そして上から炎の鎌が振り下ろされた。
「ぐはっ!」
その鎌を脇の下に力を入れてがっちりと締める。
想像以上の痛みが走る。だが我慢出来ない程ではない。むしろこの程度でこの偽物を捉える事が出来たならぬるすぎるぐらいだ。
「‥‥これで‥‥あなたは逃げられない‥‥」
「‥‥‥‥」
シャオティンの時はこのような状態でも力の差を使って無理に逃げたが、純粋な力ならこちらの方が上‥‥もはや黒衣のリシャンに逃げ場はない。
青の剣を振り下ろそうとしたその瞬間、その刃は、何かに弾かれた。
「‥‥‥‥なんで?」
「‥‥‥‥」
黒衣のリシャンは鎌の柄を二つに分断していた。固定していた鎌はそのままだったが、彼女の手には半分になった鎌があった。
「これで終わり!」
「‥‥‥‥」
鋭い痛みが肩口から斜めに体を突き抜けていく。
「‥‥‥‥私は‥‥絶対に‥‥」
赤鎧のリシャンは、その鎧を更に赤く染めながら倒れた。




