169 私が私である証
が、何もないわけではない。リシャンはその事を知っている。
魂がそれを証明してくれている。
出会った全ての人を覚えている。それこそが‥‥。
「私が私である証!」
叫ぶと同時に、光の靄が消え去る。
「‥‥‥‥」
気が付けばそこは、さっきまで戦っていた場所。
人類の歴史の過渡期で、破棄された都市の仮想世界だ。
「‥‥‥‥シャオティン?」
誰かが路上で倒れているのが見えたが、それはすぐにシャオティンだと分かった。
=‥‥リシャン‥‥間に合ったか‥‥=
「‥‥シャオティンは?」
=‥‥‥‥‥‥=
レイブンは答えない。覗き込んだシャオティンの顔は眠っているようにも見える。
だが彼女の服は血まみれで、すぐ近くに折れた長柄の武器も置いている。いかに戦闘が過酷だったかが伺える。
「‥‥私は‥‥大丈夫‥‥」
目を瞑ったまま、シャオティンは口を開いた。
そうは言っているが、平気な状態ではない事はリシャンにも分かっていた。
「‥‥そんな事より‥‥」
「分かってる‥‥」
突然に動きだしたリシャンを怪訝に思ったのか、赤い鎧のリシャンは攻撃してこない、じっとこちらを見つめている。すぐには来る気配はないようだが、それも定かではない。
「‥‥守備は‥‥どう?」
「上等」
「‥‥‥‥あなたは‥‥相変わらず‥‥ね‥‥」
シャオティンは笑みを浮かべた。
「ありがとう‥‥」
小さく呟いてから、戦乙女に体を向ける。
「レイブン‥‥シャオティンをお願い」
=‥‥分かった、任せておけ=
「‥‥‥‥」
頷いたリシャンは歩いていく。
ただ真っ直ぐに、これから戦う相手の顔だけを見つめながら。
迷いは何もない。
圧倒的な力の差を見せられた相手ではあったが、今は負けるとは微塵も思えない。
その自信の源は心から湧き上がっているものだ。
「‥‥‥‥ふふ‥‥」
周囲から光の粒がリシャンの体に集まってくる。一つの光球になった瞬間、今度は弾けて飛んで行った。
「‥‥‥‥私は‥‥」
着ていた赤い着物が変化した。黒色のフレアスカートの端や袖、あちこちに灰色のヒダが付いている黒いゴシック調の衣装になった。
「‥‥私の矜持にかけて‥‥」
背中から翼が伸びた。
それは漆黒の翼だった。翼は周囲の光を受けて黒く輝き、瓦礫の通りを刹那の光で照らす。
「‥‥‥‥私はあなたを乗り越えていく」
手の中に棒状の武器がゆっくりと姿を見せる。
長い金属の細い棒の両端に鉄が焼けたような色の鎌が付いている。
その鎌の刃は実際に燃えているようで、周囲の空間を揺らめかす。
黒衣のリシャンは、戦乙女のリシャンの正面に立った。




