167 3秒の未来を殺す
今さら何も言う事はない。
ただ全力を尽くせば良い。
「‥‥‥‥」
早さ、一撃の重さ‥‥それらは向こうのリシャンが勝っている。それにも増して、先読みのような能力や、管理局のバックアップもある。
「‥‥だとしても‥‥」
正面の戦乙女のリシャンは、生まれてまだ間もない。それに比べて十年以上の経験が自分にはある。必ずしも全てが不利というわけではない。
=シャオティン!=
「!」
リシャンの突きを、蛇棒の先で避けるが、衝撃波が全身を貫く。
「‥‥‥‥」
大きく後方にジャンプし、一回転して地面に降り立った。
切れた頬から血が流れる。脇腹の一部も出血しているようだ。
「まだ分からない? もう降参したら? あなたの体がリアル世界のどこにあるか教えてくれれば、それで攻撃はお終い。それで良くない?」
「‥‥‥‥ふふ」
やはり何も分かっていないリシャンに、シャオティンは頬の血を腕で拭いながら、不敵な笑みを浮かべる。
=‥‥どうやら奴の限界は三秒のようだ、つまり‥‥=
「‥‥その範囲でどの選択肢を選んでも避けられない攻撃を当てれば‥‥」
=そういう事になるが‥‥=
「それだけ分かれば上等。相変わらずレイブンは当てになるわね」
=その言葉が聞ければ俺も上等だ=
「!」
リシャンが翼を大きく広げる。そこから無数のガラスの様な羽が飛んできた。
シャオティンは棒を回転させて弾く。そこから外れた羽が、シャオティンの体に突き刺さっていく。
「‥‥‥‥」
顔を正面に向けたまま、視線だけで遮蔽となる場所がないかを探す。
通常の壁では防げないが、近くに大きな岩場があった。そこに隠れるのが定石だが、そこに行く事はリシャンにはお見通しだろう。
岩場までの移動に二秒、リシャンが到着するのに一秒‥‥、そこから先は‥‥。
「‥‥‥‥」
シャオティンは岩場の陰まで走った。その行動は読まれているはずだ。
隠れて一秒、すぐにシャオティンは遮蔽役の岩から体を乗りだす。
「‥‥な!」
隠れた所を、後ろから切り付けるつもりでいたリシャンは、背中を向けているはずのシャオティンが、こちらを向いて武器を振るってきた事に、意味が分からずにいた、その僅かな判断の遅さがシャオティンに半歩の余裕を与えた。
「はっ!」
シャオティンが蛇棒を真っ直ぐにリシャンに突き立てる。リシャンは盾で受けようとしたが、軌跡をずらしただけで、肩の鎧を貫いた。
「‥‥く!」
次にシャオティンが行う動作は、体を回転させてからの引き斬りだったが、回転はさせたものの、武器を振らずに体を密着させてきた。
「‥‥‥‥」
この位置からでは、予測パターンが多すぎる。判断出来ずにいると、棒の柄で突いてきた。
「ぐ!」
リシャンは一旦、距離を取った。大きく後方に飛び退く。
もしかしたらシャオティンはこの力を知って逆手に取っているのかもしれない。
「‥‥上等!」
リシャンは管理局との接続を切った。
「これは、私とあなたとの戦い! こんなものはいらないんだ!」
水色に輝く光の剣を振り上げながら、高速飛行でシャオティンに迫った。
「‥‥‥‥」
シャオティンは動かなかった。構えの姿勢もとらず、直立不動でじっとこっちを見ていた。
「‥‥どういうつもりか知らないけど!」
リシャンは目標をただ一点に絞る。
「もう避けようがないんじゃない!」
「‥‥‥‥」
リシャンの剣はシャオティンを貫いた。
背中から夥しい血が、まるで深紅の翼のように吹きだす。
「‥‥これで」
「‥‥?」
口から血を流しながらも、リシャンの腕をぐっと掴む。
「あなたはもう‥‥逃げられない!」
「!」
シャオティンの蛇棒がリシャンを捉えた。




