166 私の役目
「それは?」
よく見てみればそれは注射器のようだ。
「‥‥ランユーが作った強化プログラム。これを使えば、アバターの能力を大幅に向上させる事が出来る」
「そんなものがあるなら最初から!」
赤鎧のリシャンが剣を振った。宙に無数の光の剣が出現し、矢の様に飛んでくる。
シャオティンは長柄の武器を回転させてそれらを弾いた。
「‥‥‥‥」
シャオティンは首を横に振った。
「精神や人格プログラムに蒸着させるから、これを使う事でそれまでの自分ではいられなくなるかもしれない。それにテストもしていない。成功するとも限らない。失敗すれば人格プログラムが消滅する可能性もある。持ってはきたけど、出来れば使わないにこした事はない」
「‥‥なるほど。ぶっつけ本番って事ね」
「私がこれを‥‥」
「それは駄目ね」
「‥‥‥‥」
「あいつを倒すのは私の役。そうでしょ? あいつは私なんだし。あの頑固者を何とかするのは私の役なんだから」
「‥‥‥‥言っても聞かなそうね」
注射器をリシャンに渡す。
「使ってからプログラムが蒸着するまでは時間がかかる。それに、その間、あなたは動けない」
シャオティンは棒を回転させてリシャンの前に出た。
「そういう事でそれまでの間、私たちでリシャンを守るわよ」
=やれやれ、戦闘は苦手なんだが=
「‥‥‥‥よろしく」
リシャンは少しの躊躇もなく腕に注射針を刺した。そんなリシャンの様子をみていたシャオティンは微笑む。
「あなたにはあなたの矜持があるように、私にもそれはある‥‥それがまさかこんな事だったなんてね‥‥」
=不満か?=
「いいえ」
シャオティンは蛇棒を構える。
「これで管理局と統合政府の中枢に行けるなら‥‥本望というもの」
=しかし、それを直には見れないのだぞ?=
「ふふ‥‥それはまだ分からないでしょ」
動かなくなってしまったリシャンの頭を撫でる。
「‥‥こういう時は‥‥何て言ったかしらね‥‥」
=‥‥‥‥=
「‥‥青臭い後輩なんかには負けないからね!」
リシャンのように大声で叫び、蛇棒を回転させて柄で地面を叩いた。
「ここから先は通さない! 私の矜持にかけて!」
=‥‥恐らく、奴は数秒先の未来を見る事が出来るか、数秒元に戻る事が出来る‥‥厳しいぞ=
「‥‥分かってる」
シャオティンはリシャンを見つめる。それは今まで何度も戦い、倒してきた相手だった。その度にそのリシャンが心に刻んできた事、譲れない想い‥‥全てを受け取ってきた。心を押し殺し、世界の為と黙々と遂行してきた。目の前の彼女もまた、彼女の思う矜持に従って動いているのだろう。
今さら何も言う事はない。
ただ全力を尽くせば良い。




