16 無音の追跡者
「それより気づいていますか?
「‥‥もちろん」
学校を出てから、後ろからつけられていた。本部にアクセスして何者かを照合する事も出来たが、尾行者がテロリストの使うアバターであった場合、そのままログアウトされるかもしれない。油断させる為に気づかないフリを続けていた。
「リシャン‥‥あれは尾行にしてはかなりお粗末ですね。最低限の遮蔽もしていないようですし。素人でしょうか」
「そう思わせるのが手かもしれない。或いは、そう思わせて深読みさせて、混乱させているのか‥‥」
「‥‥‥‥」
クロウは立ち止まった。局の通信端末を離れている時は、クロウは誰の意識にも止まらないただのモブの通行人にすぎなくなる。
「‥‥‥‥」
リシャンはそんなクロウを置いて歩きだした。
尾行してきている後ろに気配を感じつつも、何もしかけてくる様子はない。
そのまま何事もなく、十分程で、マンションに着いた。
「‥‥‥‥」
正面にパスワード入力で開閉する扉がある。リシャンが番号を入れるとドアは自動で開いた。最も、このマンションはリシャン以外の住人はいない。パスワードというものも存在しない。
中に入った途端、気配は消えた。
追跡者の狙いは住所をつきとめる事だったのか‥‥一瞬だけ、そう考えたが、それはあり得ない。テロリストであればその程度の情報、こんな事をせずとも瞬間に入手できる。それとも、さっき言った通り、そう思わせる事が狙いなのか‥‥。
「‥‥‥ふふ‥」
リシャンは笑って自室の部屋の扉を開けた。奥は何処までも暗い‥‥と、言うよりは真っ暗で何もない無の空間が広がっている。
「書き割りより酷い‥‥手抜き過ぎるわね」
その無の中へ、歩いていく。そして音もなく吸い込まれていった。




