158 楽園ではなかった世界
リシャンとレイブンを含めたヴァイアスのメンバーは、都市地下の広大な空間に出た。学校の体育館の何倍もの高さと広さがある。ここは災害時に都市部に米や食料品などの物資を供給する為の倉庫である。この仮想世界の政府の発表通りの光景が広がっていた。
天井に備えつけられたライトはあるが、それでも薄暗い。夏の只中だが、地下深くはひんやりとしたかび臭い空気が漂っていた。
「ここから管理局用のサーバーにアクセスできる。お願い」
シャオティンがランユーに顔を向ける。ランユーは頷くと、ネジを外して鉄板を壁から外した。そこには灰色のコンクリの壁しか見えなかった。
「‥‥何もないようだけど?」
リシャンが目を凝らすと、瞬きをする間もなく、壁はコンソールに変わった。
「‥‥ここには本来は何もない。近くにアクセスポイントがあり、そこに接続する為にはこの場所が最適」
ランユーは慣れた手つきでパネルを操作していく。
チェンランを含めた十人ほどが、警戒の為に周囲に散った。
「そうなのか‥‥」
シャオティン達が管理局本部を襲撃する話をした時、リシャンは管理棟のある地域に行くものだと考えていた。だが、そこは一般管理者などへの表向きに発表されてる偽の管理区に過ぎず、実際の存在場所はこの仮想空間上の地点を刻一刻と変化させていた。
「つまり、私にも本当の事は知らされてなかったって事ね」
=監視官たる俺にもな=
リシャンが肩をすくめると、隣にいたレイブンも仕草を真似た。
「‥‥誰にも本当の事は教えない。それが例え管理局の人間だとしても」
ランユーはパネルを見つめながら、リシャンの言葉に呟きで答える。
「私の父は管理局で働いていた。仮想世界を管理する立派な仕事だと言っていた。でも、ある時、父は統合政府公安に連れていかれた。許可されていない特殊区域への無断アクセスして内容を広めようとした罪だったらしいけど。‥‥結局、父は帰ってこなかった」
「‥‥‥‥」
ランユーの手が震える。
「私は父が何を見たのか知りたくなった。そして真実に辿りついた‥‥ここは人類の楽園なんかじゃない。統合政府という超巨大AIが計算して出した、人類管理システムの一環だったという事を‥‥私はそれを壊す‥‥そして父の‥‥無念を晴らす」
「‥‥‥‥そう」
リシャンはそれまではただのテロリストという大きな枠の中でしか考えていなかった。だが、彼ら、彼女らの目的は政府に反抗してまでやり遂げたいものだ。それは尋常ではない決意があったのだろう事が、ここに至って初めて分かった気がした。
「じゃあ、あなたにも何かあるの? ちびっこ?」
“誰がちびっこなん!”
途端にナイフが飛んできた。リシャンは指で挟んでナイフを掴み、真っ直ぐに返した。
「‥‥っと!」
チェンランはそのナイフを掴み、足のベルトに挟んだ。




