157 私は忘れない(新たなリシャンside)
=この数日以内にテロリストの計画が三件‥‥画策されているようです=
「‥‥‥‥」
夕日の射し込む校舎の中、リシャンは窓枠に止まるクロウが伝えてきた管理局からの情報を聞いて目を細める。
「三件?‥‥三件同時?」
=そうですね。タイムラグはほとんどないようです。ですが、ほとんどが低レベルのテロリストで、我々が関与する必要はないようです。管理局はヴァイアスへの対応を最重要としています。可能性があるものは一つだけなので、リシャンはそこに向かってください=
「‥‥‥‥」
クロウの言葉を聞いたリシャンは、更に懸念の表情を深めた。
「ヴァイアスの目的は、この仮想世界の破壊なのよね」
=そうです。なので、最も効率の良く、世界を歪ませる方法を取るはずです。今度、ドーム球場でアイドルの大規模なライブがあり、そこを襲撃して大量のAIを一気に消去する事が最も効果が高いはずです=
「‥‥‥‥」
そのフレーズの一つ一つが、何処かで聞いたような気がしたが、それはただのデジャウだと結論づけたリシャンは、考えを別の方向に向ける。
「効率的だけを考えれば、確かにそうね」
=‥‥何か思う所でも?=
「ヴァイアス‥‥シャオティンがわざわざ、そんな分かりやすい事をするとは思えないけどね。まるで、ここに来てくださいって言わんばかりな」
=しかし、残りは低レベルの襲撃プランのようです。それこそシャオティンがこんな事を実行するとも思えないのですが=
「‥‥‥そう思わせるのが狙いなのかもしれない。最近の奴らの動きはどうもおかしい」
=管理局は、さっき話したライブ会場に向かってほしいとの事でした。敢えて他の箇所に当たりますか?=
「‥‥‥‥そうね」
リシャンは腕を組んだまま、指を肘の上でトントンと叩く。
「他の案件を教えて」
=まずは原発に対するテロ行為ですね。確かにそこを襲撃すれば、環境への被害は甚大ですが、それは管理局のパラメーター調整で自然な形で修正が可能ですから=
「‥‥‥‥もう一つは?」
=管理局サーバーへの攻撃ですが‥‥これはどだい、無理な話です。そこは何重もの防壁に守られており、一バイトも余計なものは通しません。対ウイルス用の備えも万全で、たまに稚拙なテロリストがこれ見よがしに向かってきますが、手前に到達するまでもなく対処しています。今回もまた同じでしょう=
「‥‥‥‥」
リシャンは無言で夕陽に染まる黒板を眺めていた。黙って見つめながら爪を噛む。
「‥‥ヴァイアスは、サーバー攻撃に注力するはず‥‥」
=なぜです?=
「シャオティンは管理局がどういう判断で指示を出すかを知っている。だから管理局が目を光らせてる所にはこない。そして原発は成功しても効果が薄い。管理局サーバーへの攻撃が稚拙なのだったのは、その攻撃自体が、今回の作戦を実行する陽動の可能性がある‥‥」
=‥‥それは‥‥=
「シャオティンなら、それぐらい用心深く行動してくると思わない?」
=‥‥そうですね、管理局に打診してきます=
クロウの姿が宙の中へと溶け込んで消えた。
「‥‥‥‥」
残されたリシャンは、窓枠に頬杖をついてグランドを見つめる。
数日前、一人の男子生徒が姿を消した。
何の取り柄もなさそうだが、それでも消えたからにはそれなりの騒ぎにはなりそうだったが、それもなく、ただ最初からいないものとして扱われた。
彼が生きて、歩んできた人生は無き者になった。
そしてその道を断ったのは他でもない、自分自身だった。
テロリストは自分の主義を貫く為に、そんなAI達の想いを踏みにじっていく。
「‥‥‥‥ふん」
鎌を出して柄を伸ばす。教室内で大振りして手前の机の幾つかに風が吹き抜ける。
通り過ぎた後に机や椅子の脚部に斜めに光が走り、重みでずれて下に倒れた。
「私は忘れない!‥‥精一杯生きた人々を!‥‥私は許さない! そんな思いを潰す奴らを!」
リシャンの矜持は夕日の色よりも紅か室内で大振りして手前の机の幾つか風が吹き抜けた。




