155 ヴァイアスの隠れ家
シャオティンと行動を共にする事にしたリシャンは、抵抗組織、ヴァイアスの本拠地に足を踏み入れた。奇岩立ち並ぶ入りくんだ海岸の奥の洞窟。波が荒く、人はおろか船も近づく事は容易ではない。さらに海面から噴き上げる風にヘリの接近すら出来ない場所だった。
「‥‥‥‥」
奥には小屋のようなものが設置されていて、照明設備も備え付けられており居心地は悪くはない。波の音と風の音がひっきりなしに鳴っており、小さな話声であれば、外に漏れる事はない。
「まさに、うってつけの隠れ家ってわけね」
ソファーに腰をおろしたリシャンはあぐらをかこうとしたが、着物の裾が邪魔になり、服の仕様を昔使った学校の制服に変更した。赤いセーラー服はスカート丈が短く、動きやすい。
「別にこんなとこじゃなくても、プログラムを変更すれば、認知されない空間に作れるでしょ?」
「不自然なパラメーターの変更は管理局に察知されてしまう‥‥」
ランユーはリシャンの顔も見ずに、ボソ‥‥と呟く。
凄腕のハッカーらしい彼女‥‥は、他人には興味がないらしい。弓を武器としているせいか、彼女のアバターは背が高く、姿勢が良くて凛とした雰囲気がある。リシャンは何か言おうとしたが、その前に奥の部屋に行ってしまった。
「‥‥‥‥」
リシャンは膝の上に肘を付け、フン‥‥と、鼻を鳴らす。
「‥‥‥‥」
背後から何かが迫ってきた事を察知し、振り向きもせずに指二本でその物体を挟む。
「へえ、意外にやるなん!」
「‥‥‥‥」
指で挟んだ小太刀を、刃の向きを投げてきたチェンランに正確に投げ返す。
「わ!」
チェンランは飛んできた小太刀を顔の前で掴んだ。
「危ないなん!」
「どの口が‥‥」
「やっぱり、お前、嫌いなん!」
舌をだして、また外に出ていった。
彼女のアバターは幼い少女のもので、言動もそれに合ったものだ。が、チェンランの本当の体は、管理局の目の届かないリアル世界の何処かにあり、この仮想世界に用事がない時はそこに帰る。違法プログラマーであるチェンランの本当の姿はシャオティンも知らない。
「‥‥まあ、帰れる場所があるなら帰った方がいいんじゃない」
「‥‥‥‥」
そんな呟きを聞いたシャオティンは、穏やかな顔で海を見つめた。
=まあ、言わば我々はウイルス。何処にも行き場がないからな=
小屋の中に、なぜか大鷲が入り込んでいるが、それはかつては管理局との連絡役になっていたレイブンだ。シャオティンのパートナーのクロウとは違い、レイブンはAIで、言う通り、管理局本部と切り離されたレイブンは、リシャン達と同じように戻る場所はない。
「‥‥で、ここに呼んだのはどういう意味?」
「‥‥うん‥‥意味か‥‥」
シャオティンは海から目を離さない。ただじっと波しぶきに耳を傾けている。
「リシャン‥‥私はね‥‥塔を脱出してから、しばらくはここに籠って動けなかった‥‥ただの岩の上に、一年以上、じっとしていた‥‥」




