154 管理局のリシャン(新たなリシャンside)
「俺は違う! この世界に逃げこんでる奴らが‥‥」
「気に入らなかったから?」
リシャンは役所の入った大きなビルの尖塔の先端に立ち、眼下にいるテロリストを見下ろす。黄色い着物が風にはためく。
「そんな理由で、ここを爆破したらどれだけの人が消えるか分かってる?‥‥それとも、あなたみたいなテロリストからしたら、AIは人間じゃないからいくら消してもノーカン‥‥って思ってる?」
フワ‥‥と、下へと降りる。展望台エリアの天井の上、テロリストの男をリシャンは数メートルの距離で対峙する。
任務を受けて現場に来てみれば、単独のただの愉快犯だった。ヴァイアスという組織を追う事を第一とされていた中、今回は外れだった。
「クロウ‥‥どうなってるの? 何でわざわざ私がこんな小物の相手をしなきゃならないわけ?」
=おかしいですね。確かにヴァイアスの痕跡があったのですが=
「‥‥‥‥」
ここ最近は、シャオティンの足取りはおろか、ヴァイアスの構成員にすら当たる事がない。それらしい手がかりが事前に表面化してはいるのだが、いざ向かってみると全く違っていた。出会ったテロリスト達はそれぞれ主義主張が違っており、一貫性がない。手口も稚拙で組織的なヴァイアスのものとはとも思えなかった。
「‥‥‥‥」
リシャンは考えた。
もしかして彼ら三下のテロリストはヴァイアスの活動を隠す為に、わざと派手な痕跡を残しているのではないかと。それならば、この無秩序さが納得できる。
「まあ、あなたは利用されたって事ね、気の毒に」
水色に輝く鎌の刃をテロリストに突き付けた。
「利用? 俺は俺の求める理想の世界の為に動いた」
「まあ、色々と考えはあるだろうけど‥‥」
言葉が終わった瞬間、鎌イタチよりも速い風が男を襲った。
「‥‥‥‥興味がない」
肩から斜めに斬り裂かれた男のアバターは、白い光の粒の集合に変わって消えていった。
「‥‥これで五件目‥‥無駄過ぎるでしょ」
=そうですね。より情報を精査するように管理局に具申しておきます=
「よろしく」
=‥‥で、次の任務なのですが‥‥=
「全く、言ってる側から‥‥で、今度は当りなんでしょうね?」
=管理局では七割以上の確率でヴァイアスと関わっているとの事だったので、多分‥‥=
「今回は八割だったでしょ?」
=まあ、残りの二割が当たってしまったという事で‥‥=
鎌を手放し、リシャンは舌を鳴らした。
「あからさまにヴァイアス臭がするのは逆にやめた方がいいわね。絶対に違うっていう案件があると思うけど」
=‥‥あるにはありますが‥‥なぜです?=
「まあ、感みたいなものかな」
リシャンは詳しくは説明しなかった。
シャオティンが撒いた餌以外に、彼女はいるはずだ。
=何を考えているのですか?=
「ん? ちょっとね」
=嫌ですよ、また危険な事をするのは=
クロウはカラスのデバイスの姿で、その仕草で考えを推し量る事は難しい。だが、ため息をついている事は何となく感じられる。
「もしかして心配でもしてくれてるの?」
=当たり前です。もうあんな事はごめんです=
「‥‥‥‥」
シャオティンと戦った後、歪みにまきこまれてしまったが、そこから脱出出来た事は奇跡的な事だった。
「‥‥もう、あんな事はさせない」
歪みが広がれば、この仮想世界全体が崩壊してしまう。そうなればこの世界で生きるAIは全て消えてしまう。
彼らの思いも、生きた証も全て‥‥。
「‥‥‥‥」
リシャンは鎌を手放して屋上から飛び降りる。他の人にはリシャンは認識出来ない。その間に学校の制服へと変わる。
「‥‥‥‥」
交差点に降り立った後、認識阻害を解除する。丁度、信号が青になり、歩道を無数の人が行き交う。
その流れの中央に立つリシャンは人々の息遣いや存在感を感じて目を閉じた。
ここは仮想世界。
だからと言って偽物の世界では決してない。
「‥‥フフ」
笑ってその人の波の中へと溶け込んでいった。




