152 私は私
「私は何人ものあなたを倒して‥‥消してきた‥‥その度にあなたは作られてきた。今のあなたも、そのうちの一人‥‥今、管理局にいるのも同じリシャン」
「‥‥‥‥」
リシャンは鎌を下ろした。
シャオティンに言われるまでもない、今まで何度もそうでないかと疑う機会があった。
そんな考えが浮かぶ度に、否定していたが、塔の中で同じ姿の守護者を見たときに、それは無視できないものになっていた。ついさっきまでは大量の自分と戦っていた。
シャオティンの言葉を否定する材料は見つからない。
「‥‥なら‥‥あの記憶は何?」
疑問を持ちながらも、払拭できなかった理由がある。
重度の身体障害者として、仮想世界のカプセルに入るその前‥‥まだ赤子だったはずが、微かだが記憶がある。
外の乾いた空気‥‥そこから液体の中に浸される時の驚き‥‥支えてくれていた人の温かさ‥‥それは仮想世界で感じるものとは違うものだ。その人が呟いた音‥‥もちろん、その時は理解できなかったが、あとになってそれの意味が分かった。
‥‥‥‥良い人生の旅を‥‥‥‥
「良い人生の旅を‥‥」
「‥‥‥‥」
シャオティンがその言葉を呟いた。
「あなたのその記憶は私にもある。そして他のたくさんの姉妹たちにも同じものが‥‥」
「‥‥‥ふ‥‥‥ふふ‥‥」
リシャンは笑った。
「そうね、確かに言う通りね!」
この事は誰にも話した事はない。クロウにすら言った事はない。それを知っている時点で、シャオティンの言っている事が本当だという事が確定した。
鎌を持つ手が一瞬だけ震えたが、逆に強く握りしめた。シャオティンは黙ってその様子を見つめる。
「私が人間でなかったとしても、それが何?‥‥何が違うの?‥‥偽物だって何が決めたの?‥‥管理局?‥‥冗談じゃない!」
「‥‥‥‥」
「私が今まで出会ってきたAI‥‥あの人達は一生懸命に考えて、悩んで、生きていた。それが嘘なんて絶対にありえない!」
自分の命が僅かである事を知りながら、その命を使ってまで舞台で歌う事を決めた少女がいた。その想いは今も心に刻まれている。
「‥‥‥‥」
「私は私! こうして考えている私はここにいる! 世界を感じている自分がいる! それが偽物であるものか!」
鎌の刃は青から赤‥‥刃が燃え盛り、白色へと変わった。光は風を巻き起こし、近くにいるシャオティンの髪を激しく揺らす。
「‥‥‥‥」
シャオティンはうつむいて少しだけ笑って目を閉じた。
「リシャン‥‥あなたは強いのね。私はしばらく立ち上がれなかった」
=‥‥知っている。お前は本当は弱虫だって事は=
レイブンが呟くと、シャオティンは笑ったまま顔をあげた。
「あなただって自分がAIだって知ってるんでしょ?」
=もちろん、だからどうだって言うんだ? その理由は今、リシャンが言った通り‥‥以下略だ、はっは!=
「‥‥‥‥ふふ」
シャオティンはリシャンに顔を向けた。




