147 自分自身を斬る覚悟
「あなたが番人ってわけ?」
「‥‥‥‥」
水色の着物のリシャンは赤い着物のリシャンのその問いには答えず、ただゆっくりと鎌を向けてきた。
=気をつけろ。管理局はAIの思考ルーチンを常に更新している。それに比べて‥‥=
「つまり、私は旧タイプって事ね‥‥」
リシャンはフフンと鼻で笑う。シャオティンと対峙した時、自分が言ったその台詞がそのまま返ってくるとは思わなかった。
「‥‥でもね‥‥」
赤のリシャンも同じ構えを取る。
「そんな付け焼刃の知識でどうかなるほど、実際は甘くないのよね」
「私は‥‥‥」
向こうのリシャンは初めて口を開いた。
「管理局の任務で、暴走中のAIを処理しに来ただけ」
「あなたはここが何処だか、なんで同じ姿をしてるのだとか、気にならないの?」
「私はこの世界の歪みをなくす! テロリストは全て排除する!」
「奇遇ね! 私も同じ!」
上下のリシャンは同時に駆けだし、階段の中央でぶつかった。
「‥‥」
「‥‥」
刃と刃がぶつかり合い、散った火花の光が、二人の全く同じ顔を照らす。
「‥‥だからね!」
「ぐ!」
赤のリシャンは鍔迫り合いの途中で青のリシャンの胴を蹴り飛ばす。その勢いでよろめいて後退して倒れた。
「そんなお仕着せの動きでどうか出来ると思ってるのが間違い!」
「‥‥‥‥」
青のリシャンは起き上がると同時に水平に鎌を振る。赤のリシャンは体をのけ反らせてその剣圧をかわした。切られた前髪が数本、宙に浮かぶ。屈んだ状態を利用して、相手の足を横から蹴りあげる。
「‥‥が‥‥」
青のリシャンは何度も回転してその場にうつ伏せに倒れた。
「‥‥どう?」
鎌の先を倒れているリシャンの鼻先に突き付ける。
「‥‥‥‥」
手前の刃ではなく、奥の顔を見つめてた。
彼女が口を開く。
「‥‥あなた達は自分の利己的欲求で、この仮想世界を危険に晒している。歪みが広がれば、全てのAI‥‥全てのアバターが消えてしまう。‥‥彼らは生きている」
「‥‥そうね」
リシャンは鎌を引いた。
「じゃあね」
「‥‥‥‥」
そのまま彼女を置いて階段を登っていく。
「!」
後ろから鎌を突いてきたが、リシャンは振り返る事なく、その切っ先を避ける。くるりと振り向いて、青のリシャンを斜めに斬り裂いた。
斬られたリシャンは光の粒が弾けて消えた。




