144 人生、お疲れさまでした(新たなリシャンside)
=仕方がない事です。管理局の指示でしたので。いや、これでも抗弁はしたのですが‥‥如何ともしがたく‥‥=
「‥‥‥ふーん‥」
指示にも偽物も本物があるのだろうか。
「まあ、いいけどね」
リシャンは肩をすくめて立ち上がる。
遠くからジェットコースターに乗る人々の歓声が聞こえてきた。
=帰る前に、最後に一仕事残ってるので、そっちを片付けください=
「一仕事?」
=テロリストに汚染されたAIは処分しなければなりません=
「‥‥‥‥」
リシャンの動きが止まる。
=ヒダカトシオ‥‥彼のAIを消去してください=
「‥‥‥‥」
クロウのその言葉に、リシャンは震えながら息を吸い込んだ。
リシャンは観覧車の中に戻った。長い時間が経ったようで、まだ観覧車は頂上から少しだけ下がった位置に降りてきていた‥‥その程度の時間経過でしかなかった。
「‥‥‥‥」
日高俊夫は、ぼうっとした顔でリシャンを見ている。手に持っている鎌に、何か反応するのかと思いきや、何も言う事もなく、ただ黙って口を開けていた。
「‥‥‥‥」
=‥‥リシャン=
「‥‥‥‥」
=あなたがやらなくても、本部で処理する事も出来ます。結果は同じ事です=
「‥‥でも‥‥私は‥‥」
=テロリストに手を加えられた時点で手遅れです。違法な行動を起こさせた後のプログラムは全て消されて、何もないのですから。今の彼はただの抜け殻のアバターです=
「‥‥‥‥」
リシャンは鎌の柄を握りしめる。
観覧車は半分の位置まで降下している。
=管理局の指示に従ってください。私は‥‥あなたを失いたくないのです=
「‥‥‥‥」
鎌を振り上げる。その姿を日高俊夫はじっと見つめていた。
=リシャン!=
「‥‥‥‥」
日高俊夫がじっと見つめている。
鎌を振り下ろそうとしたその手は途中で止まった。
「‥‥‥‥涙」
「‥‥‥‥」
日高俊夫は泣いていた。その瞳にリシャンの姿が映っている。そして泣いたままゆっくりと目を閉じた。
「‥‥抜け殻は‥‥泣いたりしない‥‥」
以前も同じ事があったような‥‥いや、確かにあった事だけは覚えている。その時の自分はどうしたのか‥‥鎌の行く先は何処なのか‥‥。
=リシャン!=
「‥‥人生‥‥お疲れさまでした‥‥」
鎌の重さをこれほど感じた時はなかった。
「はい、お疲れさまです」
観覧車は、丁度空を一周して地上へと戻ってきた。係員がドアを開ける。
降りたリシャンは、乗る時に見た同じ光景を、全く別の感情で見つめていた。
「‥‥‥‥」
意味もなく休日の為に用意した服は、全く意味のないものになってしまった。
自分の腕を掴む。
「空の旅はどうでしたか?」
係員がニコニコしながら聞いてきた。
「‥‥‥‥最悪」
「え?」
「‥‥‥‥」
そう呟いたリシャンは、一人、遊園地の外へと歩いて行った。




