141 鎌が砕いた未来(新たなリシャンside)
「‥‥‥‥」
観覧車が頂点に達した辺り、リシャンは脇腹に違和感を覚え、顔を近づけていた日高俊夫を突き飛ばした。
「‥‥これは」
刃渡りの短いナイフが突き立てられている。上着のパーカーを貫き、体内まで達しており、滲んだ血が衣服を赤く染めていた。
だがそれはありえない。エージェントのアバターは、この世界の物理的攻撃は無効化され、このような攻撃が届く事はない。
よくよく見てみれば、そのナイフは通常の構造をしていない。外見こそ刃物だが、その刃を構成するフレームのプログラムに別のプログラムが隠されている。刃は虹色の光を放っていた。
「‥‥なぜ?」
突き飛ばした日高俊夫は動かない。観覧車の床にうつ伏せに倒れたままだ。打ちどころが悪かったようにも思えない。
「‥‥‥‥」
痛みを感じる。以前にこんな事があった気がする。エージェントの防壁を超えて攻撃を通してくるというのは、そう何度もある事とも思えない。
こんな事が可能だとすれば、それはテロリスト以外にはない。
日高俊夫がそれに加担していたのだろうか。
「‥‥リアル」
刺されたら血が出る‥‥AIには当たり前の事だ。そして血を出し過ぎたら死ぬ。死んだら生き返らない。
「‥‥‥‥」
観覧車の動きが止まる。そして世界から色が消えて白黒へと変わった。
「テロリスト!」
リシャンは鎌を取り出して窓から外に出て屋根に乗った。赤く輝く刃先が、リシャンの瞳に燃える炎のように映る。
「‥‥‥‥」
風の音もなく、リシャン以外は色を失った世界が存在している。このまま永遠の時が過ぎるのではないかと思われる程の時間の経過の後、宙を誰かが歩いてくるのが見えた。
“こんにちは、お姉ちゃん”
声の主は、人形のような大袈裟な飾りのついた服を着た、お下げ髪の小さな女の子のものだった。
「‥‥‥お前がテロリストね、そんなアバターを使うなんて趣味が悪いんじゃないの?」
『それはお姉ちゃんも同じじゃないのかなあ? そこにあるお姉ちゃんは本当のお姉ちゃんじゃないわけだし』
「確かにそうね」
リシャンは傷を押さえていた手を離して両手で鎌を握る。




