14 教室に降りた影
この斜めの角度がいい‥‥。
今は授業中‥‥でも私は先生の話はそっちのけで、斜め前の席の柳瀬君をじっと見てる。
彼は私と同級生。でも彼は私の憧れ。美術部の彼は放課後に一人で絵を描いている。一度だけ廊下からそんな彼を見てしまった。
筆を流す真剣な彼の眼差し。まわりから漂ってくるピンと張り詰めた冬の早朝のような空気。
ああ、こんなに真剣に、真っ直ぐな人がいるんだなって‥‥その時から、ずっと彼の事が頭から離れない。
勇気を出して一度だけ話しかけた事があったけど、何を話したのか覚えていない。
『何を描いてるのって聞いてキャンバスを覗こうとしたけど』
『あ、いや、まだ練習中だから』
‥‥と、言って、すぐに隠されてしまった。
でも、その時、かけられた布の端から、女性の姿がチラっと見えた。
見えたのは、ほんの一瞬だったけど‥‥とても綺麗な人だったと思う。
柳瀬君が見つめる先には、いつもその女性がいる‥‥彼がそこまで思う人を見てみたい。
でも私はこうして見ているだけ、いつか私は‥‥。
「‥‥‥‥」
そんな事ばかり堂々巡りに考えている間に授業が終わって、次はホームルーム。
何だか最近は時間が経つのが早い気がする。まだ一年だけど、こんな調子で二年になって三年になって‥‥あっと言う間に卒業して‥‥そうなったら、もう柳瀬君とは会えなくなってしまう。
告白する? そんなものは多分意味がない。
彼が見つめるのは絵の中の女性だけ。
でも‥‥少しでも可能性があるなら‥‥。
“では、転校生を紹介する ”
「‥‥‥‥」
担任の声でハっと意識が自分に戻ってくる。
「明日から、このクラスで一緒に勉強する事になった、遠野楪さんだ」
紹介されて、担任の横に立っていた一人の少女が頭をさげた。
「‥‥トオノユズリハです。よろしくお願いします」
他に何も言うという事もなく、彼女はまた頭をさげ、再び顔をあげた。
「‥‥‥‥」
彼女を見ていると何だか‥‥妙な感覚になる。
高校一年にしては、外見は明らかに幼い感じ。中学生ぐらい? それとは反対に大人びた雰囲気がある。着ているものはもちろん制服。この学校は今ではあまり見られなくなったセーラー服。全体的に赤を基調としており、そこに襟や袖に白のラインが入っている。それは私が今、着ているものと同じもの。
そうか色が白すぎなのか‥‥。
私はそれで納得した。
袖から伸びた腕、膝から見える脚も眩しい程に白い。
透き通るような白い肌との比較で、目じりの紅潮は紅のアイラインでも引いているみたいに見える。それに何処までも黒い瞳は、見ていると吸い込まれそうなほど‥‥。
普段なら転校生が来ると騒ぎたてる周りの男子生徒達は、なぜか黙ったまま。
「!」
私は柳瀬君を見たの。
彼は‥‥じっと、遠野さんを見てる。
その眼差しは‥‥絵を描いてるときのあの表情と同じ。
「‥‥‥‥」
私は‥‥彼女をじっと見つめた。




