13 奇跡の定義
「‥‥‥‥」
一人の少女が高校の屋上に立って、フェンス越しに登校してくる学生達を眺めていた。
彼女の着ているのは、薄紫色の着物。金色の帯と赤い腰紐が目に付く。髪は脇の左右を団子状に結っており、耳の脇から胸元にかけて長い黒髪を垂らしている。学校の生徒とはとても思えないようない格好だ。
だが、最も彼女が異質に見えるのは、手に持っている大きな鎌だ。本来は草を刈る道具でしかないはずだが、その刃は見る者の心を委縮させてしまう程に煌めいている。
「ねえ、クロウ」
「なんでしょう?」
真後ろに立っていた黒髪、黒いスーツ姿の青年が答えた。
「わざわざ潜入する必要があるの?」
「リシャン、前も言った通り、この学校では生徒の行方不明が続出しています。既に六人‥‥これは看過できない数字です」
「失踪事件なら、この仮想世界の司法機関が調査するでしょ? むやみに干渉するのは世界の歪みの原因になるから、そこは任せた方がいいと思うけど?」
「ただの事件なら、ただの行方不明として捜査されるかもしれません。ですが、問題は、その失踪した生徒の存在そのものが消えているという所です」
「バグの可能性は?」
「何度か調査しましたが、プログラムには何の問題もありませんでした。あとは現地に潜入して理由を調べるしかありません」
「‥‥‥‥」
リシャンは遠くの空に顔を向けたまま目を細める。
正常なのに異常が発生している。本当にそんな事態になっているのなら、そのような巧妙な仕掛けが可能な存在‥‥仮想世界反対派のテロリストの存在が考えられる。
「しかし、テロリストが介入した糸口も見つかっていません」
リシャンの思惑を読んだように、クロウは説明を続ける。
「‥‥そうとう手練れのテロリストなのか‥‥」
「その辺の調査と対処が、今回の任務です。修復不可能なら、一帯をリセットするしかなくなりますので‥‥」
「‥‥それはそれで歪みが起こるかもね‥‥仕方ない‥‥」
リシャンは鎌から手を離した。
とたんに鎌は宙の中に溶け込んで消えていった。
「あくまで、調査が主体なので目立つような事はしないでください」
「彼らのストーリーには干渉しない」
リシャンは煩いといわんばかりに鼻を鳴らした。
「‥‥とりあえず、アバター達に話を聞いてみましょうか」
コツコツ‥‥と、小さな足音を立てて屋上への出入り口の扉に手をかける。施錠されているはずのドアは何もないように開いた。




