12 旅の終わり、永遠の微笑み
「活動が停止しましたね」
「‥‥‥‥」
リシャンは、かつて、ひなたと呼ばれたAIアバターを黙って見つめる。
「結局、どうだったのですか?」
「何が?」
「確か‥‥作られた幸せと、自由な不幸せ‥‥どっちがマシかという話だったかと」
「‥‥ふふ‥‥そんな事‥‥」
リシャンは彼女の頭を撫でた。
「この表情を見れば分かるんじゃない?」
「‥‥まあ、それは‥‥」
満足しきった顔で目を閉じている。
クロウは何も言わずに背を向けた。
「‥‥‥限定空間モード終了‥‥‥」
リシャンは手の平を上に広げる。そこに、部屋の全てのものが凝縮されていく。
最後には小さな四角形の立方体が浮かんでいた。
そこは初夏の田舎町ではなく、深夜の都会の上空だった。
生暖かい風が、人間が到達出来ない虚空を拭き渡っている。風がリシャンの耳脇の髪の房を時折揺らす。
「小さな空間の中とは言っても、かなりの高速で時間を進めましたからね。まさか数十年を一日で終わらせるとは‥‥それでも規約までの時間ぎりぎりでしたが」
「‥‥‥‥」
リシャンはその小さな立方体を空へと放つ。それは夜空の星に紛れて、すぐに見えなくなった。
弱々しい星空の対比で地上の光が眩しく映る。
あの無数の光の中、無数のAIアバターと、少しの人間が暮らしていて、それぞれに人生があり、それぞれの人生の旅を歩んでいる。そう思えば、この箱庭世界の何と広大な事だろう。
リシャンはその奥深さを感じずにはいられなかった。
「‥‥ねえクロウ」
「はい、何でしょう」
「リアル世界と、この仮想世界‥‥どこが違うんだろうね」
「さあ、どうでしょうか」
クロウは短くそう答えただけだった。
「ふふ」
リシャンは吹き抜ける風の中、ただ笑って眼下の人々を見つめ続けていた。




