137 回しすぎた恋人(新たなリシャンside)
「このハンドルは?」
中央にある金属のハンドルを指さす。
「これを回すと、この土台だけじゃなくて、このカップ自体も回るんだ」
「‥‥‥‥」
リシャンは手をかけた。鉄の冷たい感触が伝わってくる。少しだけ回すと、それに応じてカップも回りだす。
「‥‥‥‥」
このコーヒーカップという施設は、複数のカップの乗る大きな土台が回転する事でその景色を楽しむものだが、乗ってみても別段面白味は感じない。それはこの器具が鈍重すぎるせいにちがいない。
「‥‥‥‥」
持つ手に力をこめると、スピードは徐々に増していく。
少しはマシになったかと考え、更に速度を上げる。
「ちょ‥‥遠野さん‥‥」
「‥‥‥‥」
景色は一瞬で流れ、既に何も見えない。日高俊夫はカップの縁から頭を後ろにして体をのけ反らせていた。
「‥‥うぐ‥‥ぐ‥‥」
「‥‥‥‥」
私がした彼へのリアクション‥‥これで喜んでくれるだろうかと思ったが、何も言葉を発してこない。
「!」
土台の回転が止まり、回転していたカップも強制的に動きが遅くなっていく。
ほどなくカップは停止した。
「お客さん!」
係員の男性が二人、走って近寄ってきた。
「あんなに回したら駄目ですよ。機械が壊れてしまいます」
「そちらの彼氏は大丈夫ですか?」
見れば日高俊夫はぐったりしている。
「ふう‥‥ひどい目にあった‥‥」
頭を振って立ち上がったが、足をもつれてまた椅子に腰を下ろした。
「彼女さん」
「‥‥‥‥」
それが最初、自分の事を言われているとはリシャンは気が付かなかった。
思い返してみれば、彼氏、彼女という呼び方は互いに付き合っている事を了承したカップルの呼称だ。日高俊夫の告白を了承した自分は、彼にとっての彼女という事になる。




