135 はじめてのチケット(新たなリシャンside)
リシャンは肩からかけているポシェットを開いた。
「クロ‥‥」
中身を見た瞬間、リシャンは声を出しそうになった。
クロウに服装の装飾として持っていくようにと言われたその入れ物の中身はカラッポだった。この世界では、何かの物やサービスを受ける為には(お金)というものが必要になる。対価としてそのお金を払うシステムで、必需品が支給されるリアル世界では、標準以上の何かを欲する場合を除いて、使用される事はない。かつての任務対象だったムラシタヒビカの親は、リアル世界において標準を超える個人的な資産というものを得た稀な人物だ。だが、そのおかげて優先的に仮想世界へのアクセス権を、娘に与える事が出来たわけではあるが。
とにかくお金というものを持っていない。クロウはどういうつもりでそんな事をしたのだろうか。
「く‥‥」
ポシェットに手を入れたまま固まってしまったリシャンを見た日高俊夫は、首を傾げた。
「どうしたの?」
「‥‥その‥‥言いにくいのですが‥‥」
「?‥‥早く中に入ろう。時間がもったいないから」
チケットを渡される。
「これは?」
「?‥‥この遊園地のチケットだけど?」
「なぜ私に?」
「?‥‥買わないと入れないよ」
「‥‥‥‥」
「え?‥‥ああ、チケット代は俺が出すよ。俺が誘ったわけだし」
「そういうものなの?」
「まあ‥‥人によるけど」
「なぜ、お金を払ってるわけでもないのに私には出してくれるの?」
「え?‥‥それは‥‥」
リシャンが聞くと、今度は日高俊夫の方が口ごもった。
「その‥‥付き合ってるんだから‥‥当然だと‥‥」
「‥‥‥‥」
この世界ではお金は貴重なものだ。それを考えるまでもなく相手に譲渡する‥‥安易に了承してしまったが、付き合うという事はかなり重い決断だったらしい。
リシャンは少しだけ理解した。
ならばその対価として何を彼にあげれば良いのだろうか。その手のものは何もない。
とりあえず。
「‥‥ありがとう」
リシャンがそう言うと日高俊夫は嬉しそうに笑った。




