133 遅れてきた彼女(新たなリシャンside)
「‥‥‥‥遅い」
待ち合わせは確かにこの場所のはずだ。
遊園地の前。ここは某、夢の国の勢いに押されて小さいながらも、観覧車や、メリーゴーランドなどの定番の施設は揃っている上に、動物園も併設されている。中には食事も出来る店もあり、デートには最適な場所だ。
本当は彼女の家に迎えに行って、そこから二人で来たかったけど、遠野さんは、現地集合でと言ってきたので、仕方なくこの遊園地の正面ゲート前という事になったが、時間になっても遠野さんが来ない。
もしかしてすっぽかされた?‥‥とも思ったが、遠野さんはそんな事をする人じゃない‥‥と、思う。きっと何か大事な用事があって遅れているに違いない。
「‥‥‥‥」
そう言えば、遠野さんは、スマホ持ってないんだろうか?
電話番号も、中の連絡用のアプリのアドレスも知らない。聞いたら教えてくれるだろうか。アドレスの交換とかできたら多分、クラスで俺だけが知ってるはず。それを考えるだけでワクワクが止まらない。
それにしても‥‥。
「‥‥遅いな‥‥」
そうか、遠野さんは宮本武蔵なのか。こうやって相手をじらす事で、心理的プレッシャーを相手に与えているのか。だとすれば俺は佐々木小次郎。待たされる事で心理的に平静ではいられなくなっている(ちなみに、俺は歴史マニアでもある。困った時は世界の偉人の言葉を借りる事でどんな困難も乗り越えてきた)。
焦らし戦法? いや、そんな事では俺は揺らがない。
どんな事にも斜に構えて平常心‥‥それが俺のモットーだ。
こんな事ぐらいで‥‥。
「!」
遠くから女の子がこっちに向かって歩いてくるのが見えた。もちろん、ここは遊園地なので、他にも向かってきてる人がいる。それでも何か‥‥オーラのようなものがある。明らかに普通の女の子ではない只物ではないオーラ。あれは紛れもなく遠野楪さん。
「待った?」
遠野さんは俺の前で足を止めた。
「‥‥‥‥」
制服以外の格好を見た事が無かったので、初めて見た彼女の私服姿に俺は釘付けになって声が出ない。
薄紫色のパーカーに、黒のミニスカート。肩からは小さいバックをかけている。派手でもないし、別にブランド物とかでもないのだろうけど、それがクラスの誰も見た事のない遠野さんの姿なんだと思うと、感想を言おうとした口が開いたままになる。
待った?‥‥と聞かれて、少しね‥‥と、スマートに答えようと考えていたけど、そんな事が言える状態にはなかった。
「え?‥‥い、いや、今、来たところ」
そう言ったら遠野さんは、少しだけ笑ったような(多分)気がした。
その顔を見た俺はまた言葉が出なくなる。
やっぱり俺は彼女が好きなんだ。




