130 リハビリとしての仕事(新たなリシャンside)
郊外にある廃工場。日中でも人影はなく、それが、月も真上に上っている深夜ともなれば、猶更に人外の世界感を増している。青白い光に照らされている、錆びたトタンの壁は、コケでも生えているかのような微小な凹凸を見せていた。
「そんな小物、こっちの世界で叩く必要があるの?」
赤色の帯に薄緑色の着物を身にまとった少女‥‥リシャンは、鎌を手に持ったまま、そんな工場の敷地内を奥に進んでいく。
一匹の黒い鳥が後をついていく。そのカラスは普通のカラスではない。
=もちろん、リアル世界でもマークしてるので、こっちだけでテロリストの身柄を確保する事も出来ます。実際、その方が早いでしょう=
「‥‥これも私のリハビリの一環て事? 随分と丁寧なのね」
=エージェントは取り締まりの要ですから。これからも活躍してもらう為には、管理局はどんな労も惜しまないでしょう=
「つまり、これからもっと働けと」
=そうとも取れますね=
「‥‥ふん」
軽口を叩きつつもリシャンは周囲の警戒を怠らない。ターゲットはシャオティンとは比べようもない三下のテロリストだが、油断して足元をすくわれるという事もありえる。
=とは言え、ヴァイアスのメンバーのようなので、その辺は用心するに越した事はないで す=
「分かってる」
トラックの発着場の一段高くなっている場所から、建物の内部に入る。幾つもある搬入口のうち、入口のシャッターはほとんどが錆びれて穴だらけになっており、その中で、上から完全に落ちてしまった箇所から奥へと進んでいく。中は埃っぽくて薄暗い。換気扇の隙間から漏れる月の光が、中の埃を受けて真っ直ぐな光を指し示している。
時々足元でパキ‥‥ガラスの破片の砕ける、小さな音が鳴る。
「‥‥‥‥」
クロウの言う事を全て真にうけたわけではない。
リハビリという側面は確かにあるかもしれないが、それにしても案件で山積みの状態で、エージェントを遊ばせておく事を、管理局がするとは考えにくい。それに簡単な任務につかせた意味も別にあるのかもしれない。
今回の任務は特に指定されたものだった。ただ簡単という事なら、他に手直にたくさんあった。にも関わらず、これを指定してきたという事は、何かの意味が隠されているに違いないのだ。
「!」
窓のガラスが外れ、リシャンに向かって飛んできた。
「‥‥‥‥ふん」
鎌を何度か振ると、ガラス板は途中で砕け散った。
「‥‥フレームの無許可変更‥‥現行犯になったわね」
何度か鎌を回転させてから、柄の先を床に打ちつける。落ちていたガラスが割れて飛び散った。
「‥‥‥‥」
ドラム缶が飛んでくる。鎌を正面に持ち、顔の前で真っ二つにする。
「‥‥‥こんな子供だましでどうか出来ると思ってるなら心外なんだけど」




