128 平均値の少年に会いに(新たなリシャンside)
「‥‥‥‥」
彼を追い払う為に話した言葉が、なぜか心に突き刺さっていた。
「もしかしたら、リハビリに役立つかもしれない」
=どういう事です?=
「ふふ‥‥リハビリが終わるまで、ちょっと暇潰しにからかってみようかなって」
=ほどほどにしてくださいよ。あまり騒ぎを大きくすると、それが歪みの元になって、そこをテロリストに付け入られるかもしれませんし。大体、いつもあなたは‥‥=
クロウは途中で言葉を止めた。
=まあ、いいですけどね。ちゃんと任務の事も忘れないでくださいよ=
「了解」
リシャンは笑って少しだけ歩幅を広くする。
「‥‥‥‥」
学校から駅までの直線の道。同じ制服を着た女子生徒達が、楽しそうに話しながら歩いている。男子だけ、女子だけのグループもいれば、手を繋いでいるカップルもいる。リシャンはそんな光景を微笑ましく眺める。
彼らは人間ではなく、ただのAIだ。思考プロセスで行動しているに過ぎない。テロリストはそんな日常が繰り広げられているこの世界を偽物‥‥と呼んでいる。確かに現実の世界とここは、ほど遠い。リアルでは婚姻は統合政府の指定によって決められた相手としか出来ない。それは環境汚染による人口減少で衰退しつつある人類を、効果的に維持する為には必要な事なのだ。
リアルのテロリスト達は、そんな事情を鑑みる事なく、政府による一元管理を否定してくる。
だがここは仮想世界だ。現実社会では失われた自由恋愛も、ここでは普通に行われている。その結果、結婚しても離婚したり、家族という最小単位が不幸な結末になったりしている。それは無駄の連続で、非合理的すぎるが、リシャンの心の奥には、なぜかそれだけではない、何か‥‥が、小さく突き刺さっていた。
それが気になって仕方がなかった。
理由を知る為にも、恋愛という心理を直接聞く必要がある。
リシャンが下した合理的な判断の理由はそこにあった。
「‥‥で、さっきの男子生徒のデータは?」
=‥‥日高俊夫‥‥身長171センチ、体重62キロ。リシャンの所属するクラスの、左斜め後方に座席があります。成績は中の中。運動はそれほど得意ではありません。家庭は四人家族で、構成は、父、母。本人、妹‥‥の四人。父親はサラリーマンで、特に高い役職にあるわけでもなく、母親もパートに出て、年収は平均値の範囲です。趣味は見当たりません=
「‥‥‥‥」
リシャンはあごに手を当てて考えこむ。
「‥‥平均的な‥‥そう、平均的な高校二年男子ね」
=不服ですか?=
「ふふ‥‥平均だからこそいいんじゃない。サンプルとして最適って事で」
=なるほど=
駅までついたが、ロータリー内にあるベンチに腰を下ろした。丁度、植え込みの木が日陰になり、体感を感じる設定にしているリシャン的には丁度良い。
生徒達が次々と階段を登っていく。その姿をしばらく見ていたリシャンはフ‥‥と、笑って足元を見つめた。
=具体的にはどうするつもりです?=
「そうね‥‥」
足元に鳩が寄ってきた。ベンチの背もたれにとまっているクロウに気が付くと、バタバタと逃げていった。
「日高俊夫は今、何処にいるの?」
=現在地は、ここから近くの公園です。学校から真っ直ぐそこに向かい、動いてはいません=
「‥‥では、傷心の彼を励ましに行きますか‥‥ははは‥‥あは‥‥」
リシャンは笑いながら鳩の群を散らして今来た道を戻った。




