124 閉ざされた世界の理由
=そこは管理局のご都合主義という奴だ=
「‥‥‥‥」
バラバラバラ‥‥という回転するプロペラ音が響き、ヘリの頭がこちらを向いた状態で空中に静止した。
=まずい!=
「!」
正面の筒から無数の弾が発射される。一瞬で盾にしていた瓦礫の壁が穴だらけにされていった。
「‥‥この!」
リシャンは地面を蹴ってヘリよりも高く飛んだ。そのまま自由落下して真上から鎌を突き出してプロペラの中心に突き立てる。
「こんな‥‥ものっ!」
ガリガリという音を立ててプロペラは鎌を巻き込み、バランスを崩したヘリは地上へと落下した。リシャンは落下する直前のヘリを土台にして大きく離れた位置まで飛んだ。
「‥‥‥‥」
着地して屈んだ体勢をとったと同時に後ろでヘリが爆発する。その爆風がリシャンの着物と髪を激しく靡かせた。
残骸が激しく燃え盛り、周囲を炎の赤い光が照らした。燃料が燃える臭いと、焦げた臭いが周囲に充満する。
「あらかた片付いたんじゃない?」
鎌の柄を肩に、ポンポンと当てながら、飛んで逃げていたレイブンに言った。
=全く、乱暴な戦い方だな。シャオティンはもっと優雅だったぞ=
「それはどうも」
リシャンは鎌を消して、再び塔を目指して歩き始める。
見上げると、だいぶ近づいてきたのが分かる。あと数刻といった所だろうか。
「‥‥あんなものまで用意してまで、この世界を維持してるのは、やっぱり管理局は、この世界に何か価値を見出してるって事ね」
=こんな死んだ世界に何があるのか、俺には分からんが=
「それに完全に世界を閉ざしてるわけじゃない。消してしまわないにしろ、そうしてしまった方が楽だろうに、わざわざバックドアまであるじゃない」
目指してる塔がそれである。管理局はそこを通して、この世界を監視、管理しており、完全に捨てているわけでもない。
=そうだな、その意味までは分からないが=
レイブンは翼をクチバシに当てて考え込んでいる。その姿はどこかクロウに似ていた。
「‥‥‥‥」
シャオティンはこの世界に自分を送ったが、彼女は何を見せたかったのだろうか。
リシャンはその思惑を考えた。
「とにかくっ!」
“UGAA!”
背後からナイフを突き出してきたAIの抜け殻の兵士を、リシャンは体を反らして避ける。ふとももと肘の間に腕を挟むと、兵士はナイフを落とした。
「行けば分かる‥‥‥‥はず!」
回し蹴りで兵士を吹き飛ばした。
=しかし、リシャンは対人戦に慣れているな。いくらエージェントとはいえ、テロリストの小綺麗な攻撃とは違うだろうに=
「‥‥まあ、色々あったからね」
短い間だったが、ザフラカンでの日々が糧となっている。あの地で会った多くの人達は歪みに巻き込まれて消えてしまった。
「人生‥‥お疲れさまでした‥‥」
今になってリシャンは呟く。
=ん?‥‥何だ?=
「別に」
着物の裾をたくしあげ、腰の所で結んだ。真っ白な脚が埃だらけの中に露わになる。
=はしたないな=
「‥‥邪魔なの」
フンと一言だけ言って視線を塔に向けた。
=俺はここまで近づく事は出来なかった。ここから先はシャオティンだけが向かったが、恐らくかなりの防壁があるに違いないぞ=
「シャオティンに出来て、私に出来ないわけがないじゃない」
リシャンは大きく息を吸い込む。そして塔の頂上に顔を向けた。
「かかって来い! 偽物の力がどれほどのものか! 見せてあげるから!」
その声はこの失敗した世界013の全てに響いているかのようだった。




