121 虚構の檻を越えて
スクランブル交差点だったこの場所も、かつては大勢の人で賑わっていた都市の中心地だった。
今はもう昼夜の区別はなく、赤茶色の風が吹き続ける。
ここは失敗した方の世界013。人類などのAIはなく、プログラムは放置されて久しい。風化していく建物と伸び続ける植物だけが、時間を刻んでいるようだった。
「偽物?‥‥私が?」
リシャンは自分の手のひらを見つめた。
=不服のようだが、それが実際だ。受け入れるしかないな=
レイブンは他人事の口調で、そう言い放つ。
「‥‥別にそんな事はない」
リシャンは一度だけ大きく深呼吸した後、フンと鼻を鳴らした。
風が赤い着物の裾を靡かせる。
「本物とか偽物とか、誰が決めたの? 私の記憶は本物。出会ってきた人々の事も全部、覚えている。それは偽物じゃない、本当の事」
=‥‥強いな。それとも強がりなのか‥‥ハッハ!=
レイブンは鳥とも思えない口調で笑った。リシャンは顔をしかめる。
=いや、これは俺が悪かった。そこまで覚悟が決まっている者に、それを揺さぶるような事を言って侮辱してしまった。許してくれ=
「‥‥別に」
リシャンは表情を和らげて肩の力を抜いた。
レイブンにしても、自分がAIだと知っておきながら、リアルな命とAIの比較を話している。かつてのシャオティンと共に過ごしたその時間は彼にとっても本物のはずだ。思う所は彼にもあるはずだが、そんな事は全く口にはしてこない。
「あなたもそうなんじゃないの?」
=‥‥まあな=
それからしばらく沈黙が流れた。
目的の塔がある場所までは遠い。黙ったまま歩き続ける。
道沿いに歩いているが、下から突き出てくる植物で盛り上がり、歩きにくい事、この上ない。年月に比して大きな木が生い茂っており、その木も緑色のコケに覆われている。放置され続けた車は腐食が進んでおり、屋根などが落ちているものもあった。
「‥‥‥これさ‥」
リシャンは立ち止まり、近くにある円柱状の曲線的なビルの前で立ち止まった。もちろん窓は全て割れており、内部はツタなどが這い回っているようだった。昨日今日でこうなったとはとても思えない。
「崩壊してからどれぐらい経ったの?」
=二年ぐらいか=
「シャオティンがここから脱出したのは?」
=‥‥‥‥んー‥‥七、八年ぐらい前か‥‥=
「崩壊して二十年‥‥それにしては、だいぶ風化が進んでいるようだけど」
=まあ、そうだな=
「二十年‥‥それは確かなの?」
=一応、内部時計みたいなもので分かるからな。その辺は正確だ=
「そう」
レイブンの言葉で、リシャンは疑問が浮かんだ。




