108 無音の交差点
「‥‥‥‥」
どれぐらい時間が経ったのか‥‥リシャンは仰向けに倒れていた。気が付いた時に思った事はそこに地面がある事だった。
さっきまで海の上にいたはず。
「‥‥‥‥」
倒れたという事は真上を向いているという事、それなのに、空が見えない。
見えているのは‥‥動きの止まった灰色の雲。
「‥‥‥‥」
起き上がって辺りを見渡す。
辺りは薄暗い。前にいたビルの乱立していた街によく似ているが、どれも崩れかけていて、人は誰もいない。
手に当たる感触は石に似ているが、平でもすべすべもしていない。崩れて、ひび割れたアスファルトだった。
「‥‥‥‥どういう事?」
まさか歪みが発生した結果、世界が崩壊した?
強制ログアウトされたなら死んでいるか、本部の体に戻されているはずで、こうしてリシャンとして存在しているのはおかしい。
「クロウ!」
呼んでみたが、その声は反響してどこまでも流れていくだけだった。
「‥‥‥‥」
とにかく状況が分からない。
「こういう時は調査が基本」
判断材料が少ない。ここで何かを断定する事は出来ない。
「‥‥‥‥」
大通りのスクランブル交差点に出た。信号機や、大きな電光掲示版‥‥どれも見覚えがある。
「‥‥まさか!」
途中で止まったままの車をまたいで走っていく。奥にある店はやはり来た覚えのある店だった。
緑の看板のコーヒーショップ‥‥奥のテーブルに座って、テロリストの容疑者を尋問した記憶がある。
「‥‥‥‥」
間違いなく、ここは仮想世界013。だが、この変りようは何なのだろうか?
AIや、アバターがいなくなっている。それだけでなく他の生き物の姿もない。疑似的な気象も全て止まっている。
世界が崩壊したのかもしれない。
「‥‥‥‥馬鹿じゃないの⁈」
そう考えてしまった自分にその言葉は向けられた。
絶望するにはまだ早い。
全てが終わったわけではないのは、何よりの証拠として、こうしてアバターが存在している。
「クロウ! いないの?」
もう一度呼んでみるが、何も声は聞こえない。
こんな時はあのとぼけた声がたまらなく聞きたくなる。
「‥‥‥‥ふん」
リシャンは日の登らない街を歩いていく。




