105 天秤の刻
「シャオ‥‥ティン」
「‥‥‥‥」
必死で掴んでいるリシャンを、シャオティンは無言で見下ろす。
「‥‥残念ね、あなたとは良い友人になれると思ったけど」
「‥‥‥‥」
手を離してから、倒れている小銃を杖に、リシャンは立ちあがった。それから両手で銃を持ち上げて、その先端をシャオティンに向ける。
「‥‥そんな武器がエージェントに効かないのはあなたも知ってるでしょ? なぜそんな無意味な事をするの?」
「‥‥ふ‥‥フフ‥‥」
「‥‥‥‥?」
「無意味な事もいいものよ‥‥あなたには‥‥分からないでしょうね‥‥」
一匹の不愛想な猫の事を思い出して、リシャンは傷の痛みを忘れて笑った。
「‥‥‥‥」
一発の銃声が艦橋に鳴り響く。弾はシャオティンを避けて窓に命中してガラスは砕け散った。
「‥‥それが?‥‥何?」
「‥‥フフ」
砕けた枠の中には外の景色は映っていない。真っ暗な空間が広がっていく。
=リシャン!=
そこから真っ黒な鳥が現れた。
「久しぶり‥‥じゃない」
=‥‥‥‥全く‥‥どうして、あなたはいつもそうなんですか‥‥=
クロウの体の輪郭が光る。
=リシャンのエージェント権限を復帰。監視者権限に基づき、急事態特Sに属する事項と判断。特S能力をエージェント、リシャンに貸与=
「‥‥‥‥!」
リシャンの体が七色の眩しい光に覆われる。それはやがて大きな白い輝く球体へと変化した。回転して球体は楕円形になり、その光は弾け飛んだ。
「‥‥‥‥」
リシャンは目を開いた。
周囲には散った黄色や水色の光が、花吹雪のように広がっている。
傷や怪我の重さは何も感じない。ただひたすら軽く。それは一蹴りで世界の端まで飛んでいけそうな気がするほどだ。
白い襦袢の上に水色の着物を重ね、その上に花柄の赤い着物を着ている。アップした髪には周りと同じ茜色、黄色、水色、桃色‥‥様々な色彩の花飾りが差しており、黒髪を引き立たせている。
「‥‥‥‥ふふ」
リシャンは笑った。そして手を空へと伸ばし、握って引き抜いた先から死神の鎌を取り出す。
「あなたと私‥‥どちらに天秤が傾くか‥‥勝負はこれから!」
回転させてから切っ先をシャオティンに向ける。
「フフフ‥‥あは‥‥旧タイプには負けないからね、先輩!」
「‥‥‥‥」
シャオティンは真顔になり、リシャンに体を向けた。




