104 虚構を裂く音
シャオティンの問いには答えず、リシャンは鋭い眦を向ける。
「あら、妙な事を言うのね。それがあなたの望みだったんじゃないのかしら?」
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥ふふ‥‥これでこの地の紛争は終わる‥‥そうすれば、この地の歪みはとりあえずは起こらない。あなたはその為に行動してたんじゃないの?」
「私は話し合いに来ただけ。王は客観的な視点を持っていた。私は私が思う重さを彼に受け取ってもらいたかった」
「無意味ね」
シャオティンは項垂れたバジラフの頭を撫でる。
「リシャン‥‥あなたが目指すは、命の急激な減少を食い止めて歪みをなくす事のはず。王がこうなってしまう事が一番の近道。だから以前、あなたが基地に侵入してきた時、彼をやってなかった事が、今回の紛争の原因になった‥‥だから‥‥」
シャオティンは顔をリシャンの方に向ける。
「‥‥‥だから、今、命を散らす事になった人達に対しては、あなたの判断ミス」
「じゃあ、あなたの目的は何?」
「‥‥ん?」
「AIを大量に消滅させて仮想世界を壊すのが目的なら‥‥あなたの方こそ、何でこんな回りくどい事を?」
言い返したつもりだったが、シャオティンは眉一つ動かさない。
「前も言ったと思うけど、私はただ、あなたに知ってほしかったのよ。この仮想世界の事を、管理局、統合政府の事を‥‥だがら、ここで少しばかり世界の壁を壊すだけでは意味がないの」
「‥‥‥‥なぜ‥‥私に?」
「それはね‥‥」
「!」
シャオティンは音もなく一瞬でリシャンに近づいた。
「エージェントなどという楔の重さを私も知っているから。その無意味さも」
「‥‥‥‥」
シャオティンの声がまわりをぐるぐると回る。頭が前後に揺れてきたが、止めようと思っても止められない。
彼女の顔がぼやけて見える。
「でもあなたがそんな状態なら、もう意味がないわね」
シャオティンは長い横笛をとりだした。
「言う通り、せめてこの地を歪ませる事にしましょう」
「‥‥や‥‥やめ‥‥」
腕が何かに押さえつけられているかのように、動かそうとしてもビクともしない。
血を失い過ぎた事による反応。その理の中にリシャンはいる。
シャオティンが笛を吹いた。
ただの音としてとらえるなら、それは心地良い響きをもたらしてくれる。
「‥‥‥‥」
あれほどに澄み渡っていた空には、一時で暗雲が作られていく。その雲の中に時折、光が灯り、響くような低い音が周囲に広がっていく。
シャオティンが何をしようとしているかは詳しくは分からない。だが、このままでは手遅れになる。リシャンの心はそれを察した。
「‥‥待‥‥」
渾身の力を込めて腕をあげ、シャオティンのコートの裾を掴んだ。
が、その瞬間、稲妻が空一面に沸き起こり、次々と地上に降り注いでいく。
雷の雨‥‥そう表現するのがしっくりくる。轟音だけで、断末魔の声は聞こえてはこない。その金色の槍はこの湾岸地域一帯に、満遍なく降り注ぎ、そこにいる全ての命、物質を破壊するかのような勢いだった。
「‥‥‥‥こんなものかしら」
しばらくしてからシャオティンは笛を置いた。まだ電気を帯びた地面から時折黄色の火花が上がる。




