102 痛みの中の矜持
「‥‥‥‥良い人生の旅を」
「は? 何ですか?」
「‥‥‥‥」
キアンの声には答えず、ただ真っ直ぐに敵の中へと向かっていく。
「‥‥‥‥」
足元の瓦礫の凹凸が走りにくい。武器などの装備が重い。そもそも体の重量をコントロールする事が出来ない。
行動する度に体の体力値が減っていくのが分かる。
「‥‥‥‥」
正面に五人組の兵士が現れた。リシャンは引き金を引いたが、倒せたのはその中の一人。残りはリシャンに向けて、赤いレーザーを撃ってきた。
「‥‥‥‥」
この時代の銃火器に比べて、レーザーは直進的で全くぶれる事はない。
正確に方向を捉えれば、回避する率も高まる。
理屈ではそう理解はしていたが、実際にそれを実践できるかどうかは別問題だ。
一発‥‥二発‥‥リシャンは走りながら、その軌跡上に体を置かないように体を反らした。
途中で政府の兵士達が倒れるのを目にしたが、それはキアンが援護してくれたからなのだろう。距離が離れすぎたのかやがてそれもなくなった。
「‥‥‥‥」
頬すれすれを光線が通り過ぎていく。袖や髪の端が突然の風に細かく散った。
「行ける!」
そう口走った瞬間、鈍い痛みが腕を襲った。
「‥‥つ‥‥」
走って兵士達の頭上を飛び超えて通り過ぎたリシャンは、脚に向けて銃を撃つ。連続した弾の幾つかが命中し、彼らはその場に呻いて倒れた。
「‥‥‥‥これが‥‥痛さ‥‥」
思考のほとんどが、その負の感情で塗りつぶされていく。抗う事は至難の技だ。
軍服が赤い色で染まっていく。これは普通のAIの反応と同じだ。
“あそこだ! 撃て!”
「!」
じっとしていればただ的になるだけだ、
レーザー光が足元に突き刺さり、粉塵が辺りを舞う。
「‥‥‥‥」
リシャンは敢えてその煙の中に突入する。視界が効かないのは向こうも同じだが、対峙したその刹那の瞬間、より冷静な判断が出来たら、そこに活路が見いだせる。
ダッシュして煙を突き抜ける。
「!」
出たすぐ目と鼻の先に兵士の集団がいた。
リシャンは視線を素早く動かし、近場の何人かの兵士に向けて銃を放つ。
着地の瞬間、空になった弾倉を捨てて新しいものに入れ替える。振り向いて再度、引き金を引きつつ、顔をすぐ近くまで迫った揚陸艦に向けた。
いける‥‥そう思った矢先の事、
「‥‥かはっ!」
脚に激痛が走って、その場に倒れ込む。
「‥‥‥‥これ‥‥は‥‥」
撃たれたらしく右足から出血している。このままでは出血多量という症状で死亡してしまう。
「‥‥‥‥く」
近づいてきた兵士に向けて銃を乱射する。先ほどの地面を撃って土埃を立てるという事に習い、巻き起こされた煙を盾に、リシャンはまた走り続ける。
「‥‥‥‥」
途中で頭がフラフラしてきたので、止血しようと包帯を出そうとしたが、ポケットに入っていない。
「‥‥‥‥まあ、そうなるよね‥‥フフ」
首に巻いていたパステルグリーンの布を足に巻き付け、再び歩きだす。
あともう少し‥‥もう少しでたどり着く。
脚を引きずりながら、開いた揚陸艦の正面出口から中に入る。
彼は‥‥王はここにいる。それは疑うべくもない。
なぜなら彼は、彼の矜持をかけてこの戦いに臨んでいる。それを人任せにするような人ではない。
信じる理由は、ただの勘のようなもの‥‥ただそれだけだった。




