最終話 タコのアヒージョ 4/5
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12月5日 土曜日
目が覚めて一番最初に目に飛び込んできたのは、自分の顔の下にある腕だった。
視線はその腕をたどって、佐山くんの顔にたどり着いた。
目と口は開いていない。
鼻から出入りしている寝息が聞こえる。
目がふたつ。
その下に鼻がひとつ。
そしてさらにその下には、口がひとつ。
佐山くんだ。
昨日初めてできた彼氏で、初めて一緒に朝を迎えた相手。
にやけそうになっているのか、恥ずかしいのか、自分でもよくわからないまま、首だけ動かして壁掛け時計に目をやった。
朝7時35分。
もう一度、彼の顔に目をやった。
近い。
近くて嬉しい。
恥ずかしい気持ちもまだあるが、抵抗はない。
このままずっと見ていたいけど目を覚ましてほしくもある。
そんなことを考えていると、唐突に佐山くんが目を覚ました。
眠りを邪魔してしまったのだろうか。
あまりにも真剣に見すぎて体に力が入ったせいか、時計を見た動きのせいか。
「おはよう」
佐山くんが先に言った。
先に言ってくれたという気持ちと、先に言われちゃったという気持ち、両方が同じくらいの大きさだ。
「おはよう」
声に出すと、振動が下腹部に響いた。
痛いな。
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8時5分
「ごめんね、靴ベラなくて」
「いいよいいよ。ありがと」
靴を履いた佐山くんが玄関のドアを開けると、冷たい空気が部屋に入ってきた。
ドアを開けるとすぐ外になっている構造のこのマンションでは、冬はこのつらさがある。
しかも今は部屋着の中では厚着だが、やはり寒い。
冷気に体を小刻みに震わせると、振動が股間にまで届くのがわかる。
玄関を挟んで、私は部屋の中に、彼は部屋の外にいる。
「ほんとにここでいいの?」
「うん。帰るだけだし、着替えとかメイクとか髪の毛のセットとか、いろいろあるでしょ?」
「うん。実際そうなのよね。ありがと。助かる」
「いえいえ」
ふたりで笑うと佐山くんがためらいがちに言った。
「今日俺、特に予定ないんだけど、須藤さんは?」
目を合わせにくそうに聞くから、こちらも目を合わせにくくなった。
でもお互い、頑張って目を合わせている。
高校時代のオリエンテーション担当のときを思い出す。
「えっと、私は、部屋の掃除とか洗濯とか、夕方いっぱいまではちょっと用事をいくつかしたいかな。あと、もうちょっと寝たいね」
「そうなんだ。俺もやっぱまだ眠いから、帰って寝るよ」
「それがいいよね。ごめんねー、来てもらって。気をつけてね」
「じゃあ、夜、また会おうよ」
「……うん」
「よかった。ありがとう」
彼が微笑んで言った。
「いえいえ、こちらこそです」
急に恥ずかしくなった。
「それじゃ、また」
「うん。目処がついたら連絡するね」
エレベーターで降りていく彼を見送った玄関でひとりきりになった。
住み慣れた一人暮らしの部屋。
ちょっと寒い玄関の空気。ジンジンと痛みが残る股間。
いつまでもここで立っていても意味がないのでリビング兼ベッドルームに入った。
座り慣れたソファに腰かけると、股間の痛みが大きくなった。
「……けっこう痛いなぁ……」
切り替えたいのか、余韻に浸りたいのか、声に出た。
ベッドのそばには、昨夜脱ぎ捨てた服がそのままにしてあった。
映画終わったのが2時で、結局何時に寝たんだろう。
いったん、寝ようかな。
「大げさなのよ。まだ処女でしょうが」




