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最終話 タコのアヒージョ 2/5

 **********



「そう言えば早川主任、ヅケの話してたじゃん?」

「あぁ、須藤さんが作り方教えてくれたやつね」

「あ、やっぱそうなんだ」

「うん」

「早川主任も食べたの?」

「うん」

「うわ……恥ずかしい」

「美味しかったから、あの人もめっちゃ喜んでたよ」

「そうなんだ……まぁ、そんならよかったかな」



 **********



「ちょくちょく泊りにくるの?」

「2か月に一回とかかな。大喧嘩のたびって感じだね。今回は火曜日から。あのヅケの日だよ」

「あー! 久しぶりのときね!」

「そうそう! 初日!」

「佐山くんと会うのも、今日で4日連続だもんね。あと大喧嘩の間隔短くない?」

「いやほんとそうなんだよ」



 **********



「あー……あのときの電話でかー」

「そう……あのとき佐山くんが『朝部屋出たとき』とか……いやごめんね! 盗み聞きするつもりとか、なかったんだけど」

「いや、こっちこそ恥ずかしい話聞かせちゃって、ごめん」

「ううん、で、さっき一次会終わったときに、早川主任が佐山くんに駆け寄るのが見えたから」

「そういうことね」


 駆け寄るのが見えたから……その先はうまく言えなかった。

 佐山くんは「駆け寄るのが見えたから、姉を恋人だと勘違いした」と解釈したのだろう。

「駆け寄るのが見えたから、私の中で佐山くんに振られたんだよ」とは言えなかった。



 **********



「じゃあ佐山くんがカリオストロ知ってたの、早川主任の影響だったんだね」

「昔っからお肉系のパスタのたびにその話するんだよ」

「そうなんだね。でもあれ映画としてもすごくよくない?」

「いや、ちゃんと観たことないかも」

「え? そうなの?」

「うん。須藤さんはよく観てたんでしょ?」

「うん、ちょうどこないだ、アマプラでレンタルしたんだよね」

「ふーん……」


 あ、この流れ。「観に来る?」って誘える。


「あ、あのさ……」


 佐山くんがこちらを見ずに言う。


「なんか俺も、一回ちゃんと観てみたくて……もしまだ視聴可能期間なら、一緒に観たいんだけど……」

「あ……うん、もちろん! 観よう!」


 佐山くんの優しさだろう。

 私から誘う気配を感じたから、自分から切り出してくれたのだろう。


 観た後のことを想像していた割には、爽やかに応えたわよね、私。



 **********



 そのあとは、緊張しながらなんとか話を続けて、バーを出た。

 映画の話になったあとは、会話量がその前の半分以下になっていた。

 私も佐山くんも、緊張していたのだ。

 自宅までは電車で移動した。電車はまだある時間だったし、ふたりともタクシーが嫌いだった。

 その共通点も嬉しかった。



 **********



「お酒とか、なんか飲み物、買ってく?」


 電車をふたりで降りて、駅から出てすぐのコンビニの前で佐山くんは言った。


「あ、そうだね。家にあんまりなにもなくて」

「じゃあさ、もし先に帰って部屋の片づけとかしたいなら、俺がまとめて買っとくけど」


 うわー、ありがたい。


「ごめん、じゃあ、お願いしていい? お酒とおつまみ」

「どんなのがいい?」

「センスで」

「うわぁ、めっちゃ困る……」

「ごめんごめん、お酒は無糖レモンサワー系でストロングは飲まないの。で、おつまみならスナック系でからいの好き」

「わかりやすい! お水とかお茶は、いる?」

「それは大丈夫! ちゃんとある!」

「オッケー」


 なんかもう、付き合ってる感じじゃないの、これ?


 イメージしてた幻想に現状を重ね合わせている私に、チハルさんと佐山くんが言う。


『買った後、この子どうしたらいいのよ』

「買い終わったら、どっち歩けばいい?」

「そうだよね、ごめんね。えっとね、ここから3つ目の信号で右に曲がったら、コインパーキングに突き当たるんだけど、そこで待っててくれる? そこからは1分くらいだから。私も終わったらそこに向かうね」

「3つ目の信号を右に曲がって突き当たりね、わかった」


 念のため、ということで連絡先を交換してからコンビニの前で別れた。

 12月の空気なので早歩きしても汗をかくことはない。


「あっぶなーい! めっちゃラッキー!」

『ラッキーじゃなくて気遣いでしょうが』


 肩の上のチハルさんがやけに冷静に言う。


「いや、ほんとそうね。めっちゃ優しいわ」

『とりあえず酒の空き缶、空き瓶、脱ぎ捨てた服、洗い物、抜けた毛、食べかけのおやつ、トイレ、洗面所、お風呂場』

「……嘘の道教えて迷わせた方がよかったかな」

『あんたこの状況ですごいわね』

「冗談じゃん。でも、できれば待たせたくないから、マジで急がなきゃだね」

『それじゃあ私、角曲がってからパーキングまでのとこ、見といてあげようか? 近づいたら教えてあげる』

「ほんと?! めっちゃ助かる!」


 早歩きなのですぐに3つ目の信号まで来て、間もなく自宅に着いた。



 **********



 片付けが思いのほか短時間で終わった。

 衣類はまとめて洗濯機にそのまま突っ込んだ。

 洗い物はほとんどなかった。

 昨日の晩ごはんはここみちゃんとお寿司を食べただけだったし、飲み直しの缶チューハイとつまみはゴミをゴミ箱に入れるだけ。

 あとは朝ごはんの洗い物さえ片付ければそれで台所は全て終わる。

 トイレを親の仇のように消臭して、洗面台と浴室の排水溝フィルターをきれいにして、広くない部屋をコロコロしてしまえば、あとはすることがなくなったとも言える。


『角曲がったわよー! そろそろパーキング!』


 開けていた窓からチハルさんが入ってきて言う。


 やばい。

 いよいよじゃん。

 いや、やばくない。大丈夫。

 佐山くんから来たいって言ってくれたし、部屋の中にも幻滅させるようなものはない。はずよね。


 鍵とスマホを持って出た1分後に佐山くんと再会できた。


「ごめんね、待たせちゃった?」

「全然、めっちゃ丁度だよ」


 佐山くんの緊張具合はわからない。

 そんな余裕こそ私にはない。



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