最終話 タコのアヒージョ 2/5
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「そう言えば早川主任、ヅケの話してたじゃん?」
「あぁ、須藤さんが作り方教えてくれたやつね」
「あ、やっぱそうなんだ」
「うん」
「早川主任も食べたの?」
「うん」
「うわ……恥ずかしい」
「美味しかったから、あの人もめっちゃ喜んでたよ」
「そうなんだ……まぁ、そんならよかったかな」
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「ちょくちょく泊りにくるの?」
「2か月に一回とかかな。大喧嘩のたびって感じだね。今回は火曜日から。あのヅケの日だよ」
「あー! 久しぶりのときね!」
「そうそう! 初日!」
「佐山くんと会うのも、今日で4日連続だもんね。あと大喧嘩の間隔短くない?」
「いやほんとそうなんだよ」
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「あー……あのときの電話でかー」
「そう……あのとき佐山くんが『朝部屋出たとき』とか……いやごめんね! 盗み聞きするつもりとか、なかったんだけど」
「いや、こっちこそ恥ずかしい話聞かせちゃって、ごめん」
「ううん、で、さっき一次会終わったときに、早川主任が佐山くんに駆け寄るのが見えたから」
「そういうことね」
駆け寄るのが見えたから……その先はうまく言えなかった。
佐山くんは「駆け寄るのが見えたから、姉を恋人だと勘違いした」と解釈したのだろう。
「駆け寄るのが見えたから、私の中で佐山くんに振られたんだよ」とは言えなかった。
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「じゃあ佐山くんがカリオストロ知ってたの、早川主任の影響だったんだね」
「昔っからお肉系のパスタのたびにその話するんだよ」
「そうなんだね。でもあれ映画としてもすごくよくない?」
「いや、ちゃんと観たことないかも」
「え? そうなの?」
「うん。須藤さんはよく観てたんでしょ?」
「うん、ちょうどこないだ、アマプラでレンタルしたんだよね」
「ふーん……」
あ、この流れ。「観に来る?」って誘える。
「あ、あのさ……」
佐山くんがこちらを見ずに言う。
「なんか俺も、一回ちゃんと観てみたくて……もしまだ視聴可能期間なら、一緒に観たいんだけど……」
「あ……うん、もちろん! 観よう!」
佐山くんの優しさだろう。
私から誘う気配を感じたから、自分から切り出してくれたのだろう。
観た後のことを想像していた割には、爽やかに応えたわよね、私。
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そのあとは、緊張しながらなんとか話を続けて、バーを出た。
映画の話になったあとは、会話量がその前の半分以下になっていた。
私も佐山くんも、緊張していたのだ。
自宅までは電車で移動した。電車はまだある時間だったし、ふたりともタクシーが嫌いだった。
その共通点も嬉しかった。
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「お酒とか、なんか飲み物、買ってく?」
電車をふたりで降りて、駅から出てすぐのコンビニの前で佐山くんは言った。
「あ、そうだね。家にあんまりなにもなくて」
「じゃあさ、もし先に帰って部屋の片づけとかしたいなら、俺がまとめて買っとくけど」
うわー、ありがたい。
「ごめん、じゃあ、お願いしていい? お酒とおつまみ」
「どんなのがいい?」
「センスで」
「うわぁ、めっちゃ困る……」
「ごめんごめん、お酒は無糖レモンサワー系でストロングは飲まないの。で、おつまみならスナック系でからいの好き」
「わかりやすい! お水とかお茶は、いる?」
「それは大丈夫! ちゃんとある!」
「オッケー」
なんかもう、付き合ってる感じじゃないの、これ?
イメージしてた幻想に現状を重ね合わせている私に、チハルさんと佐山くんが言う。
『買った後、この子どうしたらいいのよ』
「買い終わったら、どっち歩けばいい?」
「そうだよね、ごめんね。えっとね、ここから3つ目の信号で右に曲がったら、コインパーキングに突き当たるんだけど、そこで待っててくれる? そこからは1分くらいだから。私も終わったらそこに向かうね」
「3つ目の信号を右に曲がって突き当たりね、わかった」
念のため、ということで連絡先を交換してからコンビニの前で別れた。
12月の空気なので早歩きしても汗をかくことはない。
「あっぶなーい! めっちゃラッキー!」
『ラッキーじゃなくて気遣いでしょうが』
肩の上のチハルさんがやけに冷静に言う。
「いや、ほんとそうね。めっちゃ優しいわ」
『とりあえず酒の空き缶、空き瓶、脱ぎ捨てた服、洗い物、抜けた毛、食べかけのおやつ、トイレ、洗面所、お風呂場』
「……嘘の道教えて迷わせた方がよかったかな」
『あんたこの状況ですごいわね』
「冗談じゃん。でも、できれば待たせたくないから、マジで急がなきゃだね」
『それじゃあ私、角曲がってからパーキングまでのとこ、見といてあげようか? 近づいたら教えてあげる』
「ほんと?! めっちゃ助かる!」
早歩きなのですぐに3つ目の信号まで来て、間もなく自宅に着いた。
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片付けが思いのほか短時間で終わった。
衣類はまとめて洗濯機にそのまま突っ込んだ。
洗い物はほとんどなかった。
昨日の晩ごはんはここみちゃんとお寿司を食べただけだったし、飲み直しの缶チューハイとつまみはゴミをゴミ箱に入れるだけ。
あとは朝ごはんの洗い物さえ片付ければそれで台所は全て終わる。
トイレを親の仇のように消臭して、洗面台と浴室の排水溝フィルターをきれいにして、広くない部屋をコロコロしてしまえば、あとはすることがなくなったとも言える。
『角曲がったわよー! そろそろパーキング!』
開けていた窓からチハルさんが入ってきて言う。
やばい。
いよいよじゃん。
いや、やばくない。大丈夫。
佐山くんから来たいって言ってくれたし、部屋の中にも幻滅させるようなものはない。はずよね。
鍵とスマホを持って出た1分後に佐山くんと再会できた。
「ごめんね、待たせちゃった?」
「全然、めっちゃ丁度だよ」
佐山くんの緊張具合はわからない。
そんな余裕こそ私にはない。




