最終話 タコのアヒージョ 1/5
29歳OLの須藤珠美は「30歳になるまで処女のままだと妖精になる」という運命の元、妖精チハルとともに、1年間を過ごすことになった。
いいと思っていた男が既婚者で、恋破れたと思っていた相手が自分のことを気になっていたと知った。果たして珠美は処女喪失をすることができるのか。
**********
佐山くんとふたりで、バーを出た。
出たというより、出された。
〜〜〜〜〜2分前〜〜〜〜〜
「さ、悪いけど、バトンタッチしてー」
早川主任が私を席から立つよう促す。
「え……いや、バトンタッチ?」
私3杯飲んで、そのまま帰るの?
「あ、大丈夫! 須藤さんが飲んだ分はお姉ちゃんが払っときますから!」
ぐずぐずしている私を強引に立たせて、早川主任は席に座った。
「そんじゃ、あんたはちゃんと須藤さんのこと安全に送ってね」
「送るって……」
言い淀む佐山くんを早川主任が睨んだ。
「あんたねぇ……この時間に居合わせといて、女の子ひとりで帰すっていうの?」
「いや……」
「須藤さん、なんか嫌なことされたら私に言ってね!」
「あ、ありがとう……ございます……」
「しないって!」
「もー! そんなのいいから! せっかくの同級生同士なのに、まだちゃんと飲んでないんでしょ? ほら! 行った行った!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
終始、山本課長の顔は見なかった。
見なかったが、見ればよかったとは思わない。
そんなことより、佐山くんとこれからどうしたらいいのか、そのことで頭がいっぱいだった。
店の前で立ち尽くしていると、佐山くんが切り出した。
「ごめんね、変な姉で」
顔を見ると、ちょっと恥ずかしそうな、申し訳なさそうな顔をしていた。
高校時代に、見たことがない顔だった。
「あはははは!」
それがたまらなく面白かった。
「いやほんとごめんって!」
「んふふふふ! 違うの! ごめん! んふふひひひひひひひ……違くて……早川主任……キャラ違いすぎて……あははははははは!」
「……そうなの?」
「うん……ふふふふふふふふ……ごめんね……」
『そのままでいいから、とりあえず歩きなさい』
チハルさんの優しい声が聞こえた。
佐山くんの手前、肩に乗るチハルさんの方を見るわけにはいかないが、そのおかげで冷静になれた。
「はぁぁぁー笑ったー」
ありがとう。
笑いの余韻は消えていないが、佐山くんの方は見ずに、歩き出してみた。
行き先は決まっていない。
でも、とりあえず店の前から離れてみた。
「あの人、会社でどんななの?」
歩き出した私に追いついて、佐山くんが話を聞いてくれる。
それだけで、体が宙に舞うように嬉しい。
「めっちゃちゃんとしてるよー! 仕事のやり方も、すごい前向きで、真剣だし」
「ほんとに?」
「え? 信じられないの?」
「いや、あれ見たでしょ?」
「見た! んふふふふふふふふふ!」
「はぁ……もう最悪だよ……」
「まぁまぁ! ちょっと飲みにいこ」
「そだね」
『おおー、その軽い感じ、いいわね。覚えとこ』
**********
ごくスムーズに「駅の反対側に行こう」と同意できた。
私も佐山くんもあの店から離れたかったが、私は電車に乗りたくはなかった。
佐山くんがどう思っているか知らないが、私の家に近づいて、あるいはもっと早く、駅でそのままサヨナラになるのは嫌だった。
会社の最寄り駅の反対側は詳しく知らないので店に心当たりはなかったが、小さな雑居ビルの2階にバーを見つけた。
広さはさっきの店の3分の1ほどだろうか。
6席だけのカウンターの向こう側には70代と思われる店主が立つ。
佐山君と並んで座ったそこからは時間を忘れて、飲んで話した。
時刻は午後11時。




