第13話 ミックスナッツ 7/7
「あら! 須藤さん! え、山本課長も!?」
早川主任が仕事中とも、歓迎会中とも全く違う調子で声を上げた。
隣の佐山くんも、驚きの顔でこちらを見ている。
佐山くんは驚きを隠すことなく、私と早川主任の顔を見比べていた。
4人のなかで、並ぶ組み合わせに驚いていないのは私だけか。
そうなのよ、ゆうくん。あなたの恋人と私は同じ職場だったのよ。
山本課長も驚いた顔で言う。
「早川主任、どうしたんですか? あ、彼氏と飲み直しで?」
まーたセクハラまがいのことを言う。
「いや、この子、弟ですから」
は?
「どうも、佐山優斗です。姉がお世話になっています」
私と山本課長に向けてかしこまったあいさつをする。
いや名字わい。
「え、名字」
「もー! 須藤さん! 既婚者既婚者!」
早川主任が自身に指を向けて言う。
「え、いや、だって部屋に」
普段なら脳内でとどめる声が口から出ていた。
「ん? 部屋」
早川主任が不思議そうにきく。
「泊まったりしてたんじゃ」
そこまで言うと佐山くんが口をはさんだ。
「いや! そんな話してないでしょ!」
「ちょっと待ってよ。ゆうくん、なんで須藤さんのこと知ってんの?」
佐山くんが言いにくそうにしているので、私が代わりに答えた。
「えっと、高校の同級生なんです。私と佐山くん」
「あー、そうなんだー……んで? あんたは須藤さんにそんな話までしてたの? いい年こいて弟の部屋に転がり込む変な女だって」
早川主任が佐山くんを問い詰める。
「言ってない! 言ってない! 言ってないよね?」
佐山くんが私に助けを求める。
「あ、ごめんなさい! 教えてもらったわけじゃなくて、前会った時に、佐山くんが電話で話してたのが聞こえて」
「ごめん、姉が旦那と軽く喧嘩してて」
「ちょっと!」
「いいだろもう。そのたび泊まりにくるようになっちゃって」
なんだそりゃ。
「まぁ私も結婚してたの言ってないですしねー。あ! ごめんなさい! おふたりいい感じなのに邪魔して!」
「いや! 山本課長も既婚ですから!」
「あ、そうなんだ?」
隣の席の山本課長から、こわばるような気配を感じた。
あ、山本課長は内緒にしてたんだ。
まぁいいやもうなんでも。
「そうなんだ……」
佐山くんが力の抜けた声を出した。
それを早川主任が目ざとく拾う。
「あれ? あんたもしかして……」
もしかして?
「もしかしてあんたが気になってた同級生って」
「おい!」
「え、なんですかそれ?」
早川主任がとても嬉しそうに言う。
「いやさー、さっきから飲んでるときも、ちょいちょい気になる同級生のこと……」
そこまで言って早川主任の顔がさらに変わった。
「え! 待って! ヅケ教えてくれた同級生って、須藤さん?!」
「ヅケ……あ! はい、そう、ですね」
いやもうそれはいいんだけど、佐山くん、私のこと?
早川主任の顔が私の顔を見ると、さらに変わった。
いたずらっぽいような、心底嬉しいような。
「じゃあもう、山本課長は私と既婚者同士、いろいろ話しましょ。あんたは須藤さんとどっか行ってよ」
おお。
こう来るの?
佐山くんは姉から退店を命じられたものの、どうしたものか決めかねていると、早川主任が真剣な目で言葉をかけた。
「あんたね、いい?」
早川主任が正面から佐山くんの肩に手を置き、真剣な顔で言った。
「な、なんだよ」
「あんたの部屋、今日はあんたたちじゃなくて私が使う、でいいよね?」
「何言ってんだよ人前で!」
早川主任、めっちゃ酔ってるな。
「あ、間違えた。須藤さんのこと、ちゃんと送るのよ?」
あんまり変わらないような気がするが。
ずっと黙っていたチハルさんが言う。
『あんたの部屋に来るかもってさ』
第13話 おわり




