第13話 ミックスナッツ 1/7
29歳OLの須藤珠美は「30歳になるまで処女のままだと妖精になる」という運命の元、妖精チハルとともに、1年間を過ごすことになった。
かすかな想いを寄せていた高校時代の同級生、佐山優斗には相手がいることに薄々気付いていたものの、その相手が早川主任だったと知った。
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年末の賑やかな街の中に、早川主任と佐山くんの後ろ姿が消えると、視界のスローモーション加工はいつの間にか終わっていた。
「須藤さんはそれでいいですか?」
「え?」
声のした方を見ると、ここみちゃんがすぐそばで私を見上げている。
「う、うん、そうね、私もバーとかがいいかな」
反射的に答えたあと、しっかりと聞き取っていた自分に驚く。
『おおー、ちゃんと聞いてたのね』
チハルさんも驚く。まるで私がうわの空になっていたことをわかっていたようだ。
チハルさんにも、佐山くん見えたの?
「山本課長は、この辺で、わかります?」
「んー、3人ならボックスあるところがいいですよね?」
「いえ、別にいいですけど」
私が答えたが、ここみちゃんが反対方向につないだ。
「でも、カウンターだとタバコの煙とか直で来ますよ? 大丈夫ですか?」
「あ」
「すみません課長、ボックス席あるところがありがたいです」
山本課長が微笑んで応えた。
「ちょっと考えてみますね」
「すみません」
「任せてください! だてに営業やってないですよ」
「お願いします!」
山本課長は私たちに笑顔を向けたあと、数秒スマホを触り、耳に当てた。
「金曜日ですもんねー」
ここみちゃんが言う。
『なるほどね、ボックス空いてるか確認しないといけないわね』
みんながみんな、それぞれを気遣い、その気遣いに気づいている。
私だけが、そんな大人の気遣いのルールから、この街から、取り残されているような気がした。
はぁ。
心底自分が情けない。
言い訳を探すように辺りを見渡すと、さっきまでちらほらと残っていた社員も姿を消していた。
ほんと私、どうしようもないわね。
「……はい。3人ボックス、行けますか? できればあの、奥まった方の……はい、ありがとうございます。じゃあ、もう今駅の近くです。はい……よし! お待たせしました、オッケーです! 行きましょう」
「ありがとうございます!」
「ありがとうございます!」
「5分くらい歩きます」
山本課長が先導するように歩き出した。
私はここみちゃんと後をついて歩きながら、スマホを数秒触り、私の肩に座るチハルさんの太ももをちょんちょんとつついた。
『ん? なに? あ、スマホ見たらいいの?』
画面が明るいスマホをここみちゃんが歩く反対側の手で持った私はうなずいた。
(チハルさんも佐山くんに気づいてたの?)
読んだであろうはずのチハルさんは、数秒黙ったあと、私の肩に乗って言った。
『うん。わかったわよ』
この雑踏の中、よく見ていたものだ。いや、私の視線や、気になる人のことを私と同じくらい気にしてくれていた、ということなのか。
(よくわかったね)
そう打つと、画面を見ていたチハルさんは応えなかった。
まぁ、確かになんとも返事のしようもないか。
そう思ってスマホをカバンに入れると、ここみちゃんが楽しげな声を上げた。
「どんなお店ですかねー」
「ほんとね」
「山本課長、スパークリングワインとか飲んだらどうします?」
「えー、それは嫌かも」
「ですよねー」
「聞こえてますよー」
「飲みます? 泡?」
「飲みませんよ! そういうの好きなの勝村だから!」
「うわ! めっちゃぽい!」
「そう言えば、勝村課長はどうされたんですか?」
ここみちゃんが聞いた。
「あいつは部下連れて2軒目」
「一緒ですね」
「俺は美女連れて2軒目」
またここみちゃんが詮索しそうなことを言う。
案の定、ここみちゃんが怪訝そうに山本課長を見ている。
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「よかったー、見つけたー」
雑踏の中、同僚たちに急いで別れを告げた早川理央は、佐山優斗の肩を叩くと同時に声にしていた。
「えっ?! な、なんで?」
「すぐそこだったのよ、歓迎会のお店」
「そ、そうなんだ」
先輩と別れた後でよかった。
誰といるとか関係なく声かけて来そうだからな。
ん?
「えっと、よかったって、なに?」
理央の言葉が気になった。
「ん? あー、ゆうくんの部屋にスマホ忘れてんの、わたし」
「あー、そうなんだ?」
だから昼間返信がなかったのか。
「そ、だから部屋にいるかいないかもわかんないのに帰りたくなかったのよ」
「なるほどね。そりゃラッキーだね」
「……ラッキーじゃない」
「な、なんで?」
「2軒目行けなくなったのよ!」
佐山は理央の酒量を知っている。
飲まずに寝ることもできるが、一度スイッチが入るとなかなか終わることがない。もし歓迎会が飲み放題だったのに
「あと飲み放題だったのに全然飲めなかったのよ!」
そうなのね。
「えっと、じゃあ、飲む? 帰る?」
「いったん飲む! あと食べる! 食べれてもないの!」
「俺食べてきたんだけど」
「じゃあゆうくんは飲むだけでよくない?」
「あ、はい」
結局押し切られるの、わかってるだろ。
そんな呆れた声が頭に響く。




