第12話 名物全部入り飲み放題 7/7
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午後9時
ここみちゃんとふたりで、山本課長だけを残して店を出た。
山本課長は会計やら忘れ物チェックやらお店の人への御礼やらで時間がかかるらしかった。
『おー! ひんやり!』
12月の外の空気は冷たい。先ほどまで暖房とアルコールで温められていた顔には、心地よい冷気だった。
「気持ちいいね」
『ねー!』
「ですねー!」
店先ではまだ数人の社員が立ち話をしている。その中に早川主任もいた。
『あの子は来るのかしらね』
私が見ていた早川主任を、チハルさんも見ていたようだ。
そんな心配をよそに、道ではたくさんの人が大きな声で話しながら行き交っている。華の金曜日。
ハナキン。
加えて12月の賑わい。
心配も薄まりそうな、楽しげな街。
『この後のことも気になるけど、やっぱりいいわねー、週末の街! 年末の雰囲気!』
ほんとそうね。チハルさんとも歩きたかったな。
「すみません、待たせちゃいましたね」
山本課長が店から出てきた。
「いえいえ」
「お疲れ様です」
私は山本課長に返事をしながら、少し離れた所にいる早川主任に目を向けた。
彼女はほかの社員と談笑していた。
その表情が、一瞬で変わった。
街を行き交う人たちの中の、ある一点に視線を向けると、急に真剣な顔になったのだ。
すぐに先輩社員たちにお辞儀をした。
なんだろう。
彼女の視線を追ったが、正解は雑踏でごまかされた。
その私の視界の隅で、早川主任が駆け寄ってくるのが見えた。
「山本課長、お疲れ様です!」
「いえいえ、楽しめたならよかったですが、どうですか?」
今から須藤さんと瀬田さんと二軒目。
山本課長はそう言うはずだった。
だがそれを早川主任が遮った。
「す、すみません山本課長!」
「? はい?」
早川主任がいつになく慌てている。
「今日は本当にありがとうございました。とても温かくて楽しい歓迎会で、本当に嬉しかったです」
『お?』
チハルさんが驚きの声を上げると同時に、私とここみちゃんは目を合わせた。
これは、ラッキー?
そうか、もしかしたらこれも、私の今の運気が味方してくれているのかも。
「ああ、いえいえ。それじゃ、帰り道気をつけて」
山本課長は二軒目の誘いの言葉を飲み込んだ。
「はい! では、須藤さんも瀬田さんも、また来週から、よろしくお願いしますね!」
「はい!」
「はい! よろしくお願いします!」
3人で笑顔を交わした。
早川主任はすべての仕事を終えたかのように晴れやかな顔をしていた。
あるいは、これからさらに向かう先があるかのような。
口調の速さからしたら、後者のような気がした。
早川主任が足早に立ち去った。
彼女が急ぎ足で向かう先をなんとなく見た。
見なければよかった。
そこは彼女が先ほど目を奪われていた場所よりも、少し離れていた。
長いブラウンの髪が歩調に合わせて揺れる。
走り出しそうな勢いだった。
街の雑踏の中を、たくさんの人を器用に避けながら早川主任は進む。
彼女のスピードが落ちると同時に、私の視界に映るものすべてがスローモーションになった。
そして、見なければよかったという後悔も、スローモーションで押し寄せてきた。
早川主任が肩を叩いて振り向かせたのは、ひとりで歩く佐山くんだった。
第12話 おわり




