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第12話 名物全部入り飲み放題 3/7

 **********



 午後6時半。

 佐山優斗優斗(ゆうと)は気になっていた。

 早川理央からの返信がないのだ。


『今日先輩と飲むことになったから、ちょい遅れると思う。長く飲む人じゃないから、多分8時か9時には終わると思うけど』


 午後4時に送ったメッセージ。

 これに返信がないのだ。

 業務中にスマホを見ることができないとしても、定時を越えてなお返信がない。

 スマホの電池切れか、スマホをどこかに忘れたか。

 いずれにしても、もし帰宅して理央が部屋の前で待っているということになれば、文句を言われるのは目に見えている。


 まぁ、こっちはちゃんと連絡してるんだから、責められる筋合いはないか。


 とは言え性格を考えれば、きっと責めてくる。

 かすかな憂鬱を押し込めたとき、先輩社員が声をかけてきた。


「佐山、出れる?」

「はい! 行きますか!」



 ************



 午後6時半。

 チェーン店ではない和風居酒屋。


「それでは、早川主任を全力で歓迎しましょう! 100対ゼロ! 乾杯!」

「カンパーイ!」


 矢野部長のよく分からない乾杯の音頭をきっかけに、歓迎会が始まった。

 自社の営業部が4人がけのテーブル席を6つ、横に並べて使っている。

 それぞれのテーブルでグラスをぶつけ合った直後、早川主任は各テーブルをあいさつに回っている。


「早川主任は、しばらくはこっちに来ないかもですねー」

「そうね」

「縁起悪い掛け声だな」


 同じテーブルの山本課長がつぶやいた。


「え? なんですかそれ?」


 ここみちゃんが尋ねる。


「カンパイ。ヒャクゼロで負けるって意味ですよ」

『え、つまんな!』

「え、つまんな!」


 誰にもわからないがチハルさんとシンクロしてしまった。

 山本課長が笑いながら突っ込んでくれた。


「須藤さんそれ言い過ぎです!」

「えーでも私は須藤さんに完全に同意です」


 とりあえず楽しいからいいや。


『気ぃ抜くんじゃないわよ。山本課長行くならもうそれでいいから、しっかりアプローチしなさい』


 だからもうそのつもりなんだってば。


 佐山優斗の顔はそれまで忘れることができていた。

 それなのに、思い出してしまえば、ふたりで話しているときのあの笑顔が鮮明に脳裏にこびりつく。


『とりあえず席は当たりなんだから、楽しく飲もう』


 そうね。

 チハルさんも、てきとうにつまんでてね。

 お酒は分けられなくてごめんだけど。


 各テーブルにサラダと刺身盛りがすぐに運ばれてきた。


『え、ちょっとなにこれ!』


 チハルさんが驚くのも無理はない。

 そしてここみちゃんも歓喜の声を上げる。


「やったー! 来ましたねー! 名物・刺盛りとポテサラ!」


 刺身盛りは小ぶりではあるものの舟盛りが各テーブルにひとつずつ。

 ポテトサラダは色の濃い黄身の卵を使い、ブロックベーコンと黒胡椒、フライドオニオン、さらにマスタードマヨが格子状にかけられている。

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