第12話 名物全部入り飲み放題 2/7
『なーんか自暴自棄って感じがすんのよねー』
始業間もないころ、デスクの隅から話しかけてきたチハルさんの顔を見る。
いつもなら返答をテキストエディタに打ち込むところだが、今日は黙ったまま、指が動かない。
黙っていると、チハルさんが続けてきた。
『後悔しなきゃいいけど』
チハルさんの顔を見ていたのはほんの1秒ほどだったが、気まずくなって目をそらした。
そして打ち込んだ。
(そもそも行為が目的なんだから後悔なんかするわけないじゃん)
『でもねー、今日のあんた見てると、誰としたいか、もうちょっと考えてもいいんじゃないかとも思うのよ』
明らかに佐山くんのことを言っている。
(部屋に泊まる子いるのに? 望みないじゃん)
テキストエディタに打ち込んですぐ、チハルさんが言う。
『だからさ、今までのあんただったら、そんなの関係なく行こうとしてたでしょ?』
いやしてないわよ。
するとは思うけど。
『それなのに落ち込んでるとこ見ると、一回は当たって砕けるつもりで、当たってみたらいいんじゃないかなって思うわけよ』
(だから砕ける意味ないじゃん)
「須藤さん、ちょっといい?」
「あ、はい。なんでしょう」
慌ててテキストエディタを隠した。
『そんだけ気になるんだったらさ』
だからもうやめてってば。
山本課長に行くのよ私は。
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須藤珠美があわててテキストエディタを閉じたとき、早川理央は同じフロアの少し離れたところで、焦っていた。
昨夜泊まった佐山優斗の部屋に、あろうことかスマホを忘れてきたのだ。
なんで今日に限って……
今朝一緒に部屋を出て、最寄り駅まで一緒に歩き、別方面のホームにそれぞれ歩き出した時に気づいた。
そして気づいたときには優斗は朝の駅の雑踏の中に消えていた。
くっそー、こんなことならほんとに合鍵もらっとくんだった。
駅に着いたばかりのタイミングなら取りに戻ってもギリギリ間に合う時間だっただけに、いっそう悔やまれた。
どうしよ……
会社のパソコンからゆうくんのアドレスにメールなんてもってのほかだし。
今日の歓迎会は18時30分スタート。
明日は土曜日なのだから、二次会三次会と、日付が変わる頃まで続くのならいい。
優斗も帰宅しているだろう。
問題はさっさと終わりそうになったときなのよね。
須藤さんや瀬田さんは、まだ私から飲みに誘うほど仲良くないし。
いや、いっそこれを機会に誘っちゃうか?
ほんとの理由なんてわざわざ言わなくてもいいし。
「早川主任、おはようございます」
「あ、山本課長! おはようございます」
「いやーとりあえず、難局は乗り越えましたね」
一昨日発生した大型のトラブルのことだった。
乗り越えたと言っても向こうの怒りがやや収まったに過ぎない。
取引の全面停止はまぬがれたものの、大幅な縮小は避けられなかった。
相変わらず自社倉庫には大量の什器が鎮座しているはずだ。
そう考えると山本課長の口ぶりは、ややのんきだと感じざるを得ない。
「今日の早川主任の歓迎会、残業で欠席多数なんて、失礼にもほどがありますからね」
「そんな……でも、みなさんとご一緒できて嬉しいです」
これは本心だ。
人数が少なくては帰宅時間が早まってしまって、開けられないドアの前で優斗を待たなくてはならない。
今日は金曜日なのだから、彼も遅くなる可能性が高い。
「ぜひぜひ、親睦を深めてくださいね」
「はい!」
特に須藤さんとは仲良くなりたい。
好きな映画が似てる。
多分探せば、もっとあるはずなのだ。
ふたりが好きなもの。
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『そろそろねー。気合い十分?』
午後五時。チハルさんが声をかけてきた。
事務職と営業職とでは終業時間が一時間ずれる。
今日はここみちゃんと本屋で時間を潰すことになっている。
テキストエディタに打ち込んで返事をした。
(まぁ、なってほしいようになってほしいかな)
『なによそれ』
うん。私にもよくわらん。
「じゃあ、出ましょうか」
ここみちゃんが声をかけてくれた。
「うん」




