第11話 値引きキムチ 4/6
佐山くんを追いかけて入った店は高級志向のある食料品店だ。
佐山くんの後ろ姿はすぐに見つかった。
彼は入ってすぐの、サラダやお弁当が置いてある棚を見ていた。
が、同時に周りも見ているように見えた。
見ているというよりも、気にしている、そんな様子だった。
だから私も横から、わざわざ彼の視界に入るように、彼の顔を覗き込んだ。
「あ、やっぱり佐山くん」
「おー! 今日も会ったね」
『いいねぇ、小芝居』
うるせえ。
チハルさんに抗議の視線を送りたかったが、佐山くんが会話をつないでくれたので、その暇がなかった。
「今日も、晩ごはんの買い物?」
「ううん、会社の人と、飲んでたの」
「あー、そうなんだ。いいねー。何食べた?」
「お寿司」
「あー……お寿司の口になった」
「ごめんねー。じゃあ買っちゃいな。高いやつ。ほら、この中トロ入りのやつなんかいいじゃん」
『なんかこなれた感じが嫌ねあんた。もうセックス経験したみたいになっちゃって』
うるさいわね!
集中してんだから邪魔しないで。普通に話すのけっこう難しいのよ。
「あーでも家にヅケあるからなぁ。あれまだ食べれてないんだよ。めっちゃ美味しそうにできたよ! ありがとう!」
佐山くんって、すごく楽しそうに話す。
それがなんか、無理して合わせてないって感じがして、すごくいい。
しょうもない冗談言ってチャラチャラ盛り上げようとしない感じが、すごく感じいい。
「やっぱり量多かった? 結構大きかったもんね」
「いや、実はまだ食べるタイミングがなくて……ここで買ったのが一昨日でしょ? んで、余った分をその日にヅケにして、昨日食べようと思ったんだけど、帰宅前に、その……会社の先輩に呼び出されて、飲みに誘われてさ」
「あ! 昨日のあの電話?」
「うん」
昨日ここで佐山くんとミートボールパスタと、カリオストロの城の話をしていたとき、電話がかかってきてたんだ。
「退勤後じゃん。そんなのあるの?」
「うん。まぁそれは、別にいいんだけど……」
「えー、でも、そんなの勤務中に誘うんじゃないの? 普通」
『あんたそれ、いたわってるつもりかも知んないけど、男の人には地雷よー』
そ、そうなのか。
「が、がんばってるね」
「そんなでもないよ。でさ、結構な量のヅケがまだ冷蔵庫にあるんだよね。おっきな柵だったからさ。今日はそれ食べなきゃ」
お?
『お?』
これは、お誘いおかわりか?
『来たわよ! おかわり!』
「そ、そうよねー、ヅケだからねー……お刺身よりは長持ちするけど、そろそろ食べちゃわないとねー。消費するの、結構大変だったりしてね!」
『うまいわよ! 珠美! ちょっと演技が不自然だけどそれはもういいわ! このまま部屋まで行くのよ!』
しゃべりながら考えるの大変なのよ。ちょっと黙ってて。
「そうなんだよ。せっかくの一人暮らしなのに、結局自分で作ったご飯ひとりで必死に片づけてね」
「え、っと、誰かと部屋で食べたりは、しないの?」
「あー……………………」




