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第11話 値引きキムチ 3/6

「つまりですね、おふたりはお金の使い方が似てるってことです!」

「まぁ、それは、付き合っていくっていうんなら、大事だけど」

「そうですよ? え? そういう話をしてるんですよね?」

「う、うん、もちろん」


 あっぶない……


『体だけが目当てなんて本当のことは言えないもんね』


 チハルさんは言いながらここみちゃんには見えないようにポテトサラダを食べる。

 その姿が見えないここみちゃんが続ける。


「まぁとにかく、お金の使い方と人付き合いがお互いズレてなければ、それは『合う』ってことだと思います」

「なるほどね」

「こちら、握りになりまーす」 



 **********



 ここみちゃんとは20時前に解散となった。

 別の路線を使うので、店を出てすぐに別れた。


「じゃあ、明日は頑張りましょう!」

「うん。そうね。頑張る」


 ここみちゃんとは別の方向に歩きだした。


『今日はあんまり食べなかったじゃない?』

「……まぁね」


 周りに聞こえないように小声で言う。


『ここみちゃんにいろいろ言われて、緊張しちゃったの?』

「……そうじゃないけど」

『ま、あんまりいろいろ言われてもねぇ……私らとは違って経験豊富そうだし、ここみちゃん』


 確認はしていないが、ここみちゃんには彼氏がいるのだろうか。

 いなかったとしても、すぐできるだろう。

 愛らしい顔立ち、愛らしい声、愛らしい身長、巨乳。

 黙り込んでいたらチハルさんが言った。


『ま、今日のところは帰ろう! 明日のパンツ選ばないとね』

「そ、そうね」


 チハルさんに小さな声で返事をしたとき、昨日、一昨日と、佐山くんと遭遇した食料品店が見えてきた。

 普段使わない駅の、普段使わないスーパーで、仲が良かった同級生と再会した。

 どうして彼と仲良くなったのか思い出せない。

 そして今、どうして思い出すことにこだわっているのかわからない。


 佐山優斗くん。

 野沢と同じ中学の出身だったから、ふたりは元々仲がよかった。

 私は、別の中学から同じ高校に上がった。


 ……あれ? そう言えば、「私と野沢」は、なんで仲良くなったんだ?

 ……あ、そうだ、オリエンテーションだ。入学してすぐにあったオリエンテーション。始まったばかりの高校生活に、期待と緊張が入り混じっていたあの頃。学校のいろんなことを、先輩たちがいろいろ工夫してくれて教えてくれたんだった。

 確かあれは2年生が主導で、私たち新入生にしてくれて……


 なにかを思い出せそうなときに、チハルさんが声をかけてきた。


『あ、佐山とかいう子よ。ほら』


 チハルさんの声に、一瞬で意識が現在に戻ってきた。

 横顔でもわかる。高校時代の同級生。佐山優斗。

 

 嘘。

 こんな都合よくことが運ぶの?

 三日連続よ?

 

『一年限定の運気があれば、よっぽど強引なことじゃなきゃ実現するのかもね』


 なるほど。そういうことね。


 平日同じような仕事をするビジネスマンなら、同じ時間帯、同じ場所であれば高確率で遭遇できる。

 この一年限定の強運なら、その高確率が、超高確率になるのだろう。


 いやめっちゃ都合いいじゃん。

 もっと使おう。


『ま、全部が全部都合いいわけじゃないけどねー』


 チハルさんが私の思考を読んだかのような口ぶりで言う。


「どういうこと?」

『だってあんた今日、パンツやばいでしょ』


 ……そうだった。


 これ以上ないくらいボロいパンツだ。

 いったいいつから履いていたのか、履いている本人にもわからないくらい、ボロいパンツだ。

 前面のレースはハリがなく、元々レースではなかった部分も薄くなっていて、レース以上に繊細な風合いを帯びている。

 ゴム部分はかなり伸びていて、慌てているときでもスムーズに履ける。

 そしてなにより、ケツ部分の布地が毛玉や毛羽立ちのために、高級なシルクでも出せない多彩な肌触りになっている。


 なんだってこんなときに限って……

 いや、普段からキレイなパンツ履いとけってことよね。

 ……いや、パンツに限った話じゃない。


『ま、どれだけ出会いに恵まれてても、自分にできる努力を怠ってる人間は、なにも手に入れられないってことね』


 くっそ。

 いちいち核心ついてくるのはいいけど、人間に戻った時には教訓をちゃんと活かせるんだろうな、この人。


『んで? どうすんの? 行くの?』

「い、行けないでしょ! 今日のパンツじゃ……」


 一瞬うわずった声を慌てて抑えて言う。

 周りには人がいたが、聞かれてはいなかったようだ。


『そんなもん、なんとでもごまかせるでしょうが。このチャンス逃していいの?』

「ご、ごまかす……?」


 どうするの?

 パンツを見られるのが困るなら、先にどっかで脱いどくとか?

 でも、それじゃブラジャーだけしてるのが変よね……

 ブラもどっかで取っとくってことか!

 ……でも、脱ぐのはいいとして、それを鞄にしまっとくの? なんか嫌だな……

 あ、そうか! こないだ佐山くんに会った時も下着買った帰りだったんだから、同じ店で買えばいいんだ!

 試着して「これ、そのままつけて帰りますね」って言えばギリギリ自然だ。

 あれ? でもパンツも試着していいのか?

 いや違う。買ってからトイレで着替えりゃいいのよ。

 お店で紙袋でももらえば履いてたパンツは入れられる。

 いや、今から買いに行って間に合うか?


『ほら! ごまかし方なんてなんでもいいから! 彼、お店入ったよ!』


 カレ。


『あたしの言い方にときめいてんじゃないわよ!』


 チハルさんに半ばけしかけられながら、佐山くんが入った店を目指した。


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