第10話 ミートボールパスタ 6/6
声の主は佐山くんだった。
「ほんとねー」
『うまいこといくわねほんと』
このとき、チハルさんの声の調子が少し気になった。
少し。ほんの少しだ。
私はその意味に気付かなかったが、チハルさんの声は、強運への呆れというより、予想通りだったような声だったのだ。
だが私にはそんなことよりも、佐山くんと再会できた楽しさの方が強かった。
佐山くんは昨日とほぼ同じ見た目だ。
同じコート。スーツやネクタイ、靴は変わっているのかもしれないが、昨日と変わらず、しっかりした見た目をしている。
うん。
ほんと悪くないわね。
生理的な嫌悪感もないし、恐怖も感じさせない。
初めてやるにはちょうどよく、悪くない相手ね。
そんな佐山くんと、まさか期待していた通りに、同じ場所で、再会できるなんて。
『なるほどねー。運が上がってると、ある程度条件をそろえといたら、たいていのことは実現するのね』
そっか、これは1年限定で強化されてるっていう運の力か。
チハルさんの言う「条件」というのは、通勤時間、使用する路線や駅のことだろう。
そりゃそうか。
そんな都合よく、運命的ってわけじゃないわよね。
私が持つ買い物カゴを見て、佐山くんが言った。
「なに? ミートボールパスタでも食べるの?」
「え?」
このとき私はどんな顔をしていたんだろう。
私の好きなものに、つまり私に、近づいてくれた喜びに、目が輝いていたんじゃなかろうか。
それとも運命的に、私がこれから作ろうとしているご飯を感じ取ってくれたのだろうか。
考えを巡らせている私に、佐山くんが不思議そうな声を絞り出す。
「……え? どうかした?」
「う、ううん、大丈夫だけど……な、なんでミートボールパスタって思うの?」
「なんでって……いや、そういうの作りそうなもの買ってるから……」
「ミートボールパスタを?」
『そうよ。あんた何入れたと思ってんのよ』
「いやそりゃそうだけど」
「え?」
佐山くんが面食らって言う。
「……ううん! なんでもない!」
あっぶない。チハルさんと話しちゃった。
ごまかしたくて、佐山くんに話しかけた。
「佐山くん、ミートボールをパスタに入れると思ったの?」
「え? うん。だってあるじゃん。あの、ルパンの」
「カリオストロの城!?」
「そうそう! 多分」
「多分って」
「いや、あんまり詳しくは知らないんだけど、なんかネットで有名じゃん」
え、なんかすごい嬉しい。
「ささ佐山くんも、晩ごはんのお買い物?」
「あぁ、ううん、明日のパン」
そう言って佐山くんは買い物かごを少し持ち上げた。
中には6個入りのミニロールパン一袋とハーフサイズのバゲットが一本あった。
「そうなのね。結構食べるね」
『明日で食べきるわけじゃないでしょうが』
「あぁ……まあ……余ったら別にそれでいいし」
「まぁ、そりゃそうね」
『え、明日で食べ終わる可能性あんの? その量?』
チハルさんが聞こえない声で追及したとき、佐山くんがコートのポケットからスマホを出した。
画面を見て言う。
「ごめん、会社の人だ…………しゃーない! 出るか。じゃあ、また今度」
「う、うん。じゃあ……また」
「お疲れさまです。……はい……いえ、大丈夫です……」
彼が電話で話す声を聞きながら、名残惜しさを抱えて離れた。
『くっそー残念だったわね。なんなら部屋で一緒に食べれたかもしれないのにさ』
「そうね。そうなったらよかったけど……」
まぁ、いくら強運でも運は運ってことね。
それにしても、仕事の電話出る姿も、なんかかっこいいなー。
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その夜食べたミートボールパスタは絶品だった。
カリオストロの城を観ながら、チハルさんと一緒にミートボールパスタを食べて、ワインを飲んで、たくさん喋った。
それに、その前に仲良くなれたふたり、早川主任と佐山くんが、ふたりとも、私が好きな映画の話をしてくれた。
早川主任でも、佐山くんでも、どっちでもいいから、ミートボールパスタの取り合い、やりたいなぁ。
チハルさんともしたいなぁ。
第10話 おわり




