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第10話 ミートボールパスタ 5/6

「……どうしたんですか?」

「え? あぁ、さっきのですね」

『それ以外になにがあんのよ』


 まぁ、同感。


「いや、ちょっとした頼まれごとというか、仲介ですね」

「仲介?」

「はい。今回のトラブルについて、なんですけどね」

「はい」

「トラブルの原因になったのが、大量の什器なんですが、その販売先についてです」

「それを、入ったばっかりの、早川主任に相談?」

「前職のツテってやつです」

「……すみません、わかんないです」

「あ、ごめんなさい。その什器っていうのが、調理場とか飲食のホールで使うようなものが大半なんです」

「あ! ホテル?」

「そうですそうです。前職がらみで、どこか販売先見つけられないかーって相談、というか、お願いですね」

「なるほど」


 本来なら使えるはずのないルートで売りさばこうとしてるわけだ。

 そりゃほかの人にはあまり聞かれたくないわね。

 シゴデキな矢野部長らしいわ。


「まぁ、断る理由もないので、いったん私から前の職場に聞いてみることになりました。その会社とか同業で受け入れてくれそうなところないか」

「なるほど」

『なるほどねー』


 それで妙に思わせぶりな空気の割に、あっさり話が終わったのか。

 でもなんか矢野部長にうまく利用された感あるのがなんか癪だな。


 すべての片付けが終わったので、早川主任と一緒に会議室を出た。

 ふたり並んでフロアに向かって歩いていると、矢野部長の顔が浮かぶ。


 退職者が前の職場に、新しい職場の在庫の捌け口として頼ってくるなんて、なかなかに不格好なことなのに、それを承知で押し付けてくるなんて。


「もっともったいぶった方がよかったかもですよ」


 あれ? なんで私がちょっと悔しいんだ?


 歩きながら早川主任が応える。


「あはは。あっさりオーケーしすぎましたかね? そうかもですね。そういうのできるようになっとかないとな……いい女なら似合うんでしょうけどねー」


 言いながら廊下を歩く姿も颯爽としていて、十分いい女だ。


「十分いい女じゃないですか」

「いやいや、目指すは峰不二子なんですけどね。矢野部長みたいな人の思い通りに動いてあげないような……ほんとですね、もっともったいぶればよかった……」

「それめっちゃ峰不二子ですねー。教えてあげてもいいけど、私の仕事の邪魔しない?ってね」

『なによそれ』


 いいのよ。伝わるつもりで言ってないから。


「うそ……須藤さん……カリオストロ好き?」


 伝わった。

 嘘でしょ?


「えっ……早川主任も?」

「えー! ほんとに?! 嬉しい!」


 早川主任の、ともすれば人を遠ざけてしまいそうなシゴデキな雰囲気は一気に去った。

 中高生かのようなはしゃぎっぷりだ。

 つい釣られて声が上ずった。


「あ、待ってください! 早川主任! 私が矢野部長ちょっと苦手な理由わかりました!」

「待って! やめて! 私もわかる! 伯爵!」

「やばーい!」


 やばい。

 中高生ノリが完全に感染した。


『なんだっつーのよ』


 ごめんねチハルさん。

 今はほっといてよ。



 **********



 退勤後、2日続けて駅ナカ食料品店に私はいた。

 昨日、佐山くんと再会できた駅だ。

 ショッピングモールに直結している大きな駅で、通路には人の流れが絶えない。


『今日も都合よく会えたりしてねー。そんでまた向こうから誘ってきたり』


 チハルさんが言うように、佐山くんに会えたらいいなという期待はもちろんあったが、今日は別の目的があった。


「今日は絶対食べたいのがあるの」


 賑やかな店内なので声に出して応えた。


『なによそれ』

「ミートボールパスタ」


 早川主任とひとしきり盛り上がってからは、今日の晩ごはんはこれに決めていた。

 もし今日佐山くんと再会できて、良い感じに誘われたとしても、断るかもしれない。

 断らないかもしれない。


『なんで?』

「え? あぁ、カリオストロの城と言えばミートボールパスタなのよ。ルパンと次元が食べててさ」

『ふーん。ごめんね、あんまり知らなくて』

「また今度観ようよ」

『アマプラにないでしょ? 金ローでやるまで一緒にいる?』


 それはつまり、それまで処女喪失はお預けということになる。

 それに、いつになるかもわからない。


「…………それはちょっと」


 チハルさんが耳元で笑った。


『いいわよいいわよ。その映画観たいって記憶くらいなら残るだろうから、また観とくわ』


 私が処女喪失したら、妖精であるチハルさんは私との個人的な記憶をなくして人間に戻る。

 記憶はなくなるけど、私が好きな映画をチハルさんが観てくれる。

 そう思うと、嬉しいけど、すごく寂しくなった。


「チハルさんと語り合いたかったな。あ、じゃあレンタルしちゃおう。3日で数百円なんだから」

『でも、早川主任もルパン好きなのねー』

「かっこいいじゃんルパン」

『かっこいいかは別にして、あれくらい明るくアプローチしてくれたら、こっちも楽でいいのにね』


 確かに。

 お目当ての女の子目掛けて、ジャンプひとつでパンイチになって飛び込む。

 駆け引きもクソもないあのアプローチは……


 その瞬間、体中に桃色の電流が走った。


『あんた、ついにアニメキャラに欲情するとはねー』


 くっそ。

 バレてる。


『あとあんた今日2回目よ』


 わかってるわよ。


 チハルさんの洞察から逃げるように、さっさとお目当てのものを買い物かごに入れはじめた。

 パスタ、パウチのミートボール、トマト缶。

 そして、最後にミニサイズの赤ワインに手を伸ばしたとき、声を掛けられた。


「あれ、今日も会えた」


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