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第10話 ミートボールパスタ 4/6

**********



 ガチャ


 C会議室に入ると、早川主任がプロジェクターを段ボール製の箱に入れているところだった。


「お疲れ様です早川主任。それ、やりますよ」

「いえ、これくらい……って言いたいんですけど……ごめんなさい」


 早川主任はそう言ってプロジェクターから手を放したので、私が請け負った。


「このプロジェクター、ほんとしまいにくいんですよね。まず本体の前に電源ケーブルを入れるんですけどね」

「ふんふん」

「あ、いや、そうじゃなくて……早川主任、ここはいいんで、山本課長のとこ行ってください。次のこと頼みたいみたいですよ?」

「……須藤さんとか事務方がこういう片付けするんですか?」


 真剣な声だった。


「え? いや、普段はしませんが、さっき山本課長から『早川主任のこと手伝ってほしい』って」

「じゃあ私も片付けます」

「いや、でも山本課長がほかに頼みたいことあるって言ってて」

「でも、私にここの片付けお願いと言ったのも山本課長ですよ? つまり、ちゃんと片付けてから次の仕事だってことですよ。だからこそ、山本課長は須藤さんに『片付け代わって』じゃなくて『片付け手伝ってきて』って言ったんじゃないんですか?」

「……いやそうだと思いますけど、今はかなり急ぎっぽいですし」

「急ぎって言っても、私ひとりで戻るより、ふたりで戻った方が全体の処理スピードは上がるはずです。急ぎならなおさらそうしないと!」


 すごい。めちゃくちゃ説得力あるな。


『あー、あんたこれは勝てないわねー』


 チハルさんが言うが、私はもはや勝ち負けなど考えもしなかった。

 早川主任が続ける。


「それに、今後私一人で片付けできるようになっとかないと、また手をお借りすることになっちゃいますので」

「ま、まぁ……そうですね」

「はい! だからちょっぱやで片付けちゃってふたりで山本課長を驚かせちゃいましょう!」


 え、なんか青春っぽい。


『なんかいちいち輝いてるわね』


 チハルさんがもはや諦めたような口ぶりで言う。


 ほんとそうなのよね。

 これはもう、向こうが本気出したら山本課長取られるわ。


「あの、ところで会議って、なんだったんですか? かなり緊急事態っぽいですけど」


 私は会議室内の椅子や机の位置を整えながら早川主任に尋ねた。


「あ、それですね。実はうちがお客様から受注した什器が、本来ならいったんうちの倉庫に届くはずだったんですけど、直接お客様のところに行っちゃって。あ、これは完全にうちのミスらしいです。しかもそれが複数施設分が一箇所にドカンと」

「ドカンと……」

「はい。そしてそれが運悪く、先方がとてつもなく忙しいときで、そしてこっちの荷物が届いた混乱のために、本来最優先で確認しなければならない荷物の確認が遅れたとかで、取引終わるかもです」

「え?! 大丈夫なんですか? それ」


 早川主任も椅子、机の位置を整えながら言う。


「いや多分アウトです」

「じゃあ……」

「今回の取引取り消し、大型顧客の喪失、大量の什器の回収費用、倉庫の長期間占有、販売先の確保、今後の回避策の策定……ってとこですね」

『ハネたわね』

「……ハネましたね」

「え? ハネた?」


 ガチャ


 私が慌てて取り繕おうとしたとき、会議室に矢野部長が入ってきた。


「あー、早川さん、ちょっといい?」

「? はい。どうかされました?」


 早川主任はここで声をかけられることに心当たりがなさそうだった。

 ついさっきまで一緒にいた会議のその直後には声を掛けずに、しばらくしてから周りに人がいなさそうな時に声を掛けてきているのだから、私から見ても不思議だった。

 そして矢野部長は、声を掛けていたドアのところから動かない。

 つまり、「こっちに来い」という意味だ。


『おや? 穏やかじゃないねぇ』


 チハルさんが楽しそうに言う。


 穏やかじゃないのは昼食後からずっとだが、確かに何かありそうだった。


「…………」


 早川主任が特に言葉を足さずに、私に目配せだけして矢野部長に歩み寄った。

 矢野部長は早川主任を部屋の外に迎えるように、ドアを開けたまま、体を外に出した。

 そしてそのまま、ふたりで会議室の外に出た。


『んんー! 穏やかじゃないねぇ!』


 チハルさんはいっそう楽しそうだ。

 私は、楽しむ気にはなれないが、ものすごく気になった。

 気にはなるが、具体的に思考が巡る前に、早川主任がついさっき閉じたばかりのドアを開けた。


「では、また後で」

「はい。よろしくね」


 矢野部長がドアの向こうで離れていくのがわかった。


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