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第10話 ミートボールパスタ 3/6

**********



 昼休みが終わってすぐ、山本課長が早口で声をかけてきた。


「須藤さん悪いんだけど30分後の会議の資料お願いできますか?」


 余裕のなさそうな早口だ。

 ほんのわずかだが、呼吸が荒くなっている。


「え、ええ、もちろん」

『やっと来たわね。もうちょっとゆっくりしてってよ』


 無茶言わないでよ。

 どう見ても忙しそうでしょうが。


「この資料10部コピーしてください」

「はい。ホチ止めは?」

「できるならしてください」

「あ、私もやります」


 早川主任が加わった。


「早川さんにも会議に入ってもらいます。その打ち合わせを今からさせてください」

「あ、はい」

『あっち行きなさいよね! あ! 違う! 哲雄とふたりっきりにならないでよ!』


 無茶言わないでよ。


「C会議室なので須藤さん、余裕あったら運んどいてください」


 山本課長は私にそう言ったきり、早川主任も置いて行ってしまった。


 やり取りに物足りなさを感じたけれど、忙しそうな山本課長も良い感じではあった。

 スーツの下の薄くない胸板が上下していた。

 急な会議で、各所を奔走しているのだろう。


 あんな息切らされて抱かれたら……どうなっちゃうんだろう……


 その瞬間、体中に桃色の電流が走った。


 ぐぁぅ。

 こんな脈絡もなく来るとは。


 生理的欲求は生命維持に関わるものほど優先されると聞いた。

 昼食を食べて食欲が満たされたばかりの今、性欲にシフトしやすくなっているのだろうか。


『あんたまたキたでしょ?』


 なんでわかんのよ。

 早めに資料作って会議室持ってけば、ひとりでする時間あるかも?


 そんな私の考えは知らず、早川主任が言う。


「ごめんなさい、手伝えなくて」

「何言ってるんですか。縁の下の力持ちですから!」

『手伝わない方がいいわよ。会議室でしちゃうかもしれないから』


 なんでわかんのよ。


 早川主任は申し訳なさそうに笑いながら、山本課長の行った方に歩いていった。


 山本課長、昼休み明けですぐ頼んでくるってことは、お昼ごはんも食べてないのよね。


『多分哲雄、昼ごはんまだよ』


 1ヶ月近く一緒にいるせいか、考えることが一致してきた。


 だから欲情したときも、どう対処しそうなのかもわかるのか。



 **********



 午後2時半。

 山本課長、勝村課長、矢野部長が揃ってフロアに戻ってきた。


「じゃあ山本くんは一時的に渡せるものは勝村くんに渡しちゃって」


 早口に指示する矢野部長の顔に笑顔はない。


「承知しました。じゃあ勝村課長、15分後に」

「はい」


 こちらもいつもの仲良しモードではない。

 好ましくない状況が発生したことは、コピーを取っただけの私にもわかる。

 席に戻った山本課長に、声をかけた。


「山本課長、何かできることあったら、いつでもお願いします」

「あ、そうですね。じゃあごめんなさい、早川さんが残って会議室の片付けをしてくれてるので、手伝ってもらっていいですか? 彼女にまた別のことを頼まなくてはならないので」

「わかりました」


 言っちゃ悪いけど、こういうときって事務職は気楽よね。


『なんか大変そうだけど、金曜の歓迎会に課長クラスが来れなくなったら意味ないわよね』


 ほんとじゃん。


『そして早川主任は来るのよ? 主役だし、まだ残業するほどは関わらないだろうし』


 うんまぁそれならそれで。

 フロアにふたりっきりで残業とかにならないならいいわ。



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