第10話 ミートボールパスタ 1/6
29歳OLの須藤珠美は「30歳になるまで処女のままだと妖精になる」という運命の元、妖精チハルとともに、1年間を過ごすことになった。
この1年は出会いの運が劇的に向上するとのことだが、すでに珠美はその運に振り回されている。
果たして珠美は妖精になってしまう前に処女喪失をすることができるのか。
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12月2日 水曜日
「須藤さん、おはようございます」
通勤中、会社まであと200メートルほどの地点で声をかけてきたのは早川主任だった。
「あ! おはようございます」
急に背筋を伸ばしたので肩のチハルさんが落ちかけた。
『ちょっとぉ、なに元気よく挨拶してんのよ』
いやそれはいいでしょ。
紺のチェスターコートにグレーのスーツ、白いブラウス。
ややウェーブがかったブラウンの髪が、12月の気温の低い朝の空気に揺れて輝いている。
ヒールがよく似合う。
「そんなにかしこまらないでくださいよー」
「そ、そうですね」
『どっちが新入りかわかんないじゃない』
ふたりで並んで歩く。
周りにはたくさんのビジネスパーソンが、同じ方向に歩いている。
雑踏の中、ドギマギしている私よりも、遥かに余裕があり、堂に入っている早川主任が話を振ってきた。
「須藤さん、いつもこの時間なんですか?」
「そうなんですよ。あとここみちゃん、瀬田さんも」
「そうなんですねー。ていうか、名前呼びだったんですね」
「あ、まずいですかね、同じ職場で」
「瀬田さん可愛いからまずくないんじゃないですか?」
『お、あんたにケンカ売ってきたわよ』
いや絶対違うから。
『可愛くないってさー』
それってあなたの感想ですよね?
「ですよねー。よかった。ここみちゃんほんと、ウチの会社の天使です」
「ウチの……」
早川主任が短く言って黙った。
あれ? 変だった?
「須藤さん、すごい……」
「え? なにがですか?」
「いや、あの、えっとですね……」
早川主任が話そうとしたとき、後ろから矢野部長が声をかけてきた。
「おはようございます。さっそく仲良くできてるね」
いつも通り、服も髪もきっちりしている。
きっちり整った眉毛の下の目は、こちらもきっちりしているかをいつでも判定していそうだ。
「おはようございます」
「矢野部長、おはようございます。ほんと、すごく優しい人ばっかりの職場でビックリしてますよ」
「そうだねー。人間関係の円滑化も仕事のうちの管理職としては、仕事奪われてる感じだよ」
笑顔で言っているが安心感はない。
ねっとり、まとわりつくような笑顔。
『ナニイッテンスカ矢野部長アッテノイイ雰囲気ジャナイッスカー』
ちょっと。
やめてよ。
『って言わせたいのよ』
でしょうね。
そういうテンプレート通りの返答は誰もが思いつく。
私とチハルさんが声にならないやり取りをしていると、早川主任が言った。
「周りがいい人ばっかりだから、私もいい人になれそうな気がします」
お?
『お?』
「そう思う早川さんもやっぱりいい人だなー。いやー俺ほんと仕事ないなー」
そう言いながら矢野部長は歩く速度を上げていった。
『採用二関ワッテル矢野部長ノ功績ッスヨー』
やめろってのよ。
おだてんのうまいな。




