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第9話 ハマチのヅケ 5/7

 ガチャ


 会議室のドアが開くと、早川主任が入ってきた。

 手にはコンビニのレジ袋があった。

 彼女は会議室全体を見渡すと、入り口近くの席に座ろうとした。いくつかの小グループが散らばる部屋の中で、どのグループからも適度に離れている場所だ。


「あ、早川しゅにーん」


 声をかけられた彼女は、驚いて声の主を探した。


「こっち、よかったら」


 言いながら隣の椅子を引く私の耳をチハルさんが引っ張る。


『敵と馴れ合おうとすんじゃないわよ! あんた!』


 引っ張られた耳は痛いが、無視するしかない。


 うっさいなぁ! この場合、知らんぷりするほうが変なんだって!


「いいんですか? お邪魔して……」

「邪魔じゃないですよー」


 立ったまま話す早川主任に、ここみちゃんがいつも通り可愛らしく答えた。


「そうですよ」

「ありがとうございます」


 入社初日のぎこちない笑顔だが、喜んでくれてはいるようだ。


「お昼は、外行かなかったんですね?」


 早川主任が椅子に座ったので、ここみちゃんが尋ねた。


「そうなんですよ。矢野部長が、初日だからってお昼連れてってくれるって言ってたんですけど、急にゴタゴタしだして、いつ休憩行けるかわからないから先にどうぞって」


 言いながら、ガサゴソと袋の中からサンドイッチを取り出す早川主任。

 言葉には少しだけ不満そうな、へそを曲げたような雰囲気がある。

 そんな早川主任以上に、チハルさんは不満そうにへそを曲げて私のお弁当をつまみ食いしている。

 私もここみちゃんも、すでにお弁当の7割方を食べ終えていた。


ここみ「それでちょっと出遅れたんですね」


珠美「それなら前もって『お昼連れてく』なんて言わなくてもいいのに。矢野部長そういうとこあるよね」


理央「そうなんですか?」


ここみ「そうなんですよー。ちょっと周りを振り回しがちというか、いいかっこしたがりというか」


珠美「まぁでも困るのはそれくらいですよ? 基本的なことはちゃんとしてるんで」


理央「そうなんですね」


珠美「あの、私たちに敬語じゃなくていいですよ。上司ですし」


ここみ「そうですよー」


理央「いや、そういうわけにはいきませんよ。職場だし」


ここみ「でもいま休憩中ですよ?」


理央「いやでも、瀬田さんは須藤さんに敬語ですよね? 私にも敬語使ってるじゃないですか」


珠美「私の方が年上だからですよ。じゅうぶん打ち解けてはいます。ね?」


ここみ「はい! そう言えば早川主任、何歳ですか? 私28ですけど」


理央「今年32です」


珠美「29でェす」


ここみ「須藤さんほんとかわいい!」


珠美「まぁそれはいいとして、年上なので敬語使わなくていいですよー」


理央「そっか……まぁ、そういうことなら、勤務時間外はそうしようかな」


ここみ「そうしてください!」


珠美「3つ上か、同い年くらいかと思いました」


ここみ「ですよねー」


理央「ていうかふたりともお弁当? すごい……」


珠美「晩ごはんの残りとかですよ、私は」


ここみ「私はそれプラス冷食です」


チハル『あんたは晩酌のつまみの残りでしょうが』


理央「いや、晩ごはん作ってるのが偉いですよ」


ここみ「早川主任は、なんですか? それ」


理央「え!? なにがですか?」


珠美「サンドイッチと、おにぎりと、ハム?」


理央「……変ですか?」


ここみ「はい。だってハムサンド買ってるし」


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