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第9話 ハマチのヅケ 3/7



「初めまして。営業2課の課長の山本です」

「よろしくお願いします」


 山本課長と早川主任が向き合って話している。


「では課のメンバーを紹介しますね。一度には覚えられないと思いますが、まぁゆっくりで行きましょう。あとで名前つきの座席表を渡しますので」

「はい。ありがとうございます」


 山本課長が居住まいをただして言う。


「えーっと、改めてですが、山本哲雄です。営業2課の課長です」


 哲雄って言うんだ。


『へー、哲雄名前かっこいいじゃん』


 ほんとね。


 私やここみちゃんを含めて、課のメンバーを山本課長がひと通り紹介していった。


「よろしくお願いします!」


 早川主任が頭を下げた。

 そこを通りがかった矢野部長が、こちらに声をかけてきた。


「あ、歓迎会、金曜日だからねー。よろしくー」

「……急だな」


 山本課長が、矢野部長には聞こえないようにつぶやいた。

 営業で動いている人は「3日後に歓迎会やるから」は困るだろう。


「す、すみません」

「早川主任が謝ることじゃないですよ」


 早川主任と山本課長とここみちゃんが驚いた顔で私を見ている。

 私も驚いた。自分がこんなこと言うなんて。


 なんでこんなこと言ったんだ、私。

 そもそも困ってそうなのは山本課長なんだから、私がフォローするのは筋違いでしょうが。


 自分の発言をどう弁明したらいいか困っている私を助けるように、ここみちゃんが続けた。


「そうですよー。もう12月なんだから、後になる方が困りますし、金曜日ならいっぱい飲めますから。須藤さんが」

「私?!」

「へー、お酒好きなんだ、須藤さん」


 山本課長も話に入ってきた。


「あれ! 山本課長知らないんですか? 一緒に飲んだら楽しいですよー。今度一緒に行きます?」

「いいんですか? ぜひお願いしたいです」


 ほんとに?!


『ほんとに?!』

「ほんとに?!」


 私にだけ、脳内の自分の声をあわせると、3人分の声が聞こえた。


「ご、ごめんなさい、本当ですか?」


 敬語を忘れて声を上げたことを謝るここみちゃんに、山本課長が言う。


「う、うん。本当です。早川さんも、営業部全体の歓迎会も大事だけど、小規模のチーム飲みとか、どうですか?」


 話題を急に振られた早川主任が、驚いた様子も隠さず答える。


「い、いいんですか? ありがとうございます!」


 ここみちゃんが早川主任に人懐っこく聞く。


「結構お酒好きですか?」

「え、ええ、人並みには」

「あー、いいですか?」


 山本課長が手を軽く上げ会話を遮った。

 それはそうだ。業務に関係ない話題だし、そもそも業務の話の途中だった。


「じゃあ、歓迎会のあとのチーム飲みの日取りは追々決めますね。早川さんから、聞きたいことはないですか?」

「えーっと、そうですね。あ、電話機の使い方と、あと事務用品の」



 **********



 間もなく昼休みになろうとするころ、チハルさんがデスクの上でストレッチしながら言う。


『哲雄といい感じになれそうじゃん?』


(その呼び方やめて)


 画面上に開いているテキストエディタに打ち込んで答えた。

 チハルさんは暇そうなときはすぐに気づくので、以前取り決めたような、いちいち机を指で叩く合図はしない。


『いいじゃーん。あんたも呼び慣れといた方がいいわよ』


 なによそれ。


 入社時にはフルネームを聞いたかもしれないが、「山本課長」としか呼ばないので働いているうちに下の名前は忘れていた。


『それはそうとしてさ、あの早川って人は、どうなのかしらね』


(どうって?)


『あんたと哲雄の邪魔してくるかどうかってことよ』


 あー……


 少し考えてテキストエディタに打ち込んだ。


(そういうこと考えたことなかった)


『まったくもー! だからあんたはダメなのよ。ぼーっとしてたら男なんかすぐ取られるんだからね』


 そうかな。


『あんたがいいと思う男なんて、ほかの女から見てもまぁまぁいいのよ。取られるの嫌ならちゃんと先に取っときなさい』


 説得力あるな。処女なのに。


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