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第9話 ハマチのヅケ 1/7

 29歳OLの須藤珠美は「30歳になるまで処女のままだと妖精になる」という運命の元、妖精チハルとともに、1年間を過ごすことになった。

 この1年は出会いの運が劇的に向上するとのことだが、すでに珠美はその運に振り回されている。

 果たして珠美は妖精になってしまう前に処女喪失をすることができるのか。


 **********



 12月1日 火曜日 7時40分



 いや11月終わったじゃん!


 テレビを見ながらメイクをしていたら、ふと気づいた。

 今日から12月だと。

 29歳になってから、「あと1年はある」と高をくくっていたら、あっという間にひと月が過ぎていた。

 天気予報のコーナーが終わるとアナウンサーが元気よく言った。


「今日から12月ですね。今日はまだ暖かいようですが、朝晩の寒さにはお気をつけください」

「いや11月終わったじゃん!」


 耳元でチハルさんが叫んだ。


「わかってるわよ、うるさいなー」

「わかってないでしょ! 12分の1が終わったのよ?! なにも進展が起きないまま!」


 まぁ、そう言われると、ちょっとだけゾッとする。


「なにもなかったわけじゃないじゃん!」

「なにがあったのよ!」


 なにもなかった。


「ほら! なにもないでしょ?!」

「これからだってば! 仕込みの1か月なのよ。フラグは立つところで立ってるから!」

「……たとえば?」

「山本課長とー、勝村課長」

「勝村は彼女いるんでしょ」

「彼氏つくることが目的じゃないじゃん。処女卒業が目的でしょ?」

「ま、まぁ、言っちゃえばそうなんだけど」

「でしょ?」


 チハルさんを言い負かしてチークを入れる。


「え? だとしてもなんも進んでないでしょうが。なんで勝った気でいるの?」

「……勝った気になるくらい許してよ」

「私に勝ってどうすんのよ」


 うるせえな。


 進展がない、というのは自分が一番よくわかっていた。

 チハルさんが言うには「妖精に憑かれている間の1年は男運が向上している」ということだが、私はどうやらそのアドバンテージを活かしてはいないようだった。


「はー……」


 思わずため息が出たが、チハルさんは何も言わない。


 具体的にどうすりゃいいってのよ。


 勝村課長と映画館で手が触れたり、山本課長といい感じに会話できたり、いろいろとフラグのようなものはある。

 あるにはあるが、そこからどういうルートを通って、最終的に裸でベッドに入るのかがわからない。


 ドラマとかだと、バーで飲んで、そのまま送ってもらうとか、だよね?

 ま、そういうチャンスがあれば、意識してみるしかないね。


「よし! 終わり! 行こ。姿消してね」

『相変わらず早いわねーメイク』

「チハルさんはもっと時間かける?」

『時間かかるのよね。そもそもそんなに好きじゃないしね』

「私もだよ。好きじゃないからさっさと終わらせてるし」



 **********



「あ、そういえば、聞きました? 営業部に新しい人が来るっていう噂」


 朝、更衣室で一緒になったここみちゃんが言う。


「え? なにそれ?」

「なんか、新しく入社するんですって」

「この時期に?」

「ね? ほんとですよね。すごく忙しいってわけじゃないからいいんですけど、普通4月とか10月じゃないですか」

「そうだよねー。何歳くらいの人?」

「いや、私もそこまではわからないんですけど。女の人ではあるらしいです」

『なんだ女か』

「そうなんだねー」


 確かに、ちょっと期待はした。

 いい感じの男だったらいいなぁ、と。


「歓迎会とかやるんですよね……嫌だなぁ、大規模飲み……」

『来たわよ! 珠美! 歓迎会! チャンスよ!』


 わかってる! ほんとそう!


 脳内では「飲み会→男性社員と2人で2軒目→なんだかんだで裸でベッドイン」の図式が完成していた。






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