第8話 鶏むねチャーシューと手羽唐 2/4
**********
11月17日 土曜日 午前10時
ここみちゃんとC駅で待ち合わせし、ふたりで歩いて目的のジムまでたどり着いた。
普段使わないリュックが重い。
中身は着替え、タオル、水筒、と持ち歩くことがないものばかりだ。
シューズは男女でわけたレンタルがあるらしいので、それは助かった。
建物を見てここみちゃんが言う。
「ここの、4階から6階なんですね」
「そうなんだね。キレイそうなところでよかった」
「ほんとですねー」
ふたりで中に入り、4階に着いた。
「いらっしゃいませー」
女性スタッフがいる受付は、シンプルで明るく、清潔感があった。
これなら女性も通いやすいだろう。
スタッフの案内を受け、ここみちゃんと一緒に更衣室に入った。
「あ、私、トイレ行ってますね。先に着替えててください」
「うん。わかった」
すぐにここみちゃんがトイレに行ったので、ロッカールームには私ひとりになった。
『いやー楽しみねー』
チハルさんが話しかけてくる。
「そうなの? 意外」
『なにがよ』
「いや、なんか、マッチョとかって嫌いそうだったから。頭悪そうに見えるとか、体鍛えてるくせによくよく風邪ひくとか、トレーニングのために誰よりも早く退勤するとか、思ってそうだったから」
『そう思うのはあんたがそういう人だってだけでしょ?』
「……朝の仕返し?」
『いや、ほんとにそう思ってんのよ。具体的すぎるでしょうが』
ロッカーを開け、着替えを始めた。
動きやすいように、下着はスポーティーなものにしてきた。
「まぁ、確かに、私が思ってることでもあるね」
マッチョという人種にあまりいい印象は持てない。
『でもさ、いいカラダしてるのはいいことでしょ? 腹出てるよりよっぽどいいじゃん。「多少おなかが出ててもそれはそれで可愛い」なんていうのは幻想ね。腹が出てるなんてのは肌荒れと一緒よ。ない方がいいに決まってるの!』
「……まぁ、そうかもね」
『ま、だから見る分にはいいのよ。それに、体鍛えててもそれをアピールしてこない人もいるから、そういう人に出会えたら儲けモンよね』
確かにそうかも。
ま、どんな人がいるかはわからないから、とりあえず今日の体験トレーニングで嫌なことスッキリ忘れたいわ。
『それはそれとして……あんた、大丈夫なの?』
「なにが?」
『いいカラダした男が筋トレしてるとこなんか見たら、いろいろ我慢できなくなるんじゃないの?ってこと』
「ま、まぁ、なんとかなるんじゃないの?」
土曜日の野沢の一件があるので、「とにかく体を動かしてストレス発散!」としか考えていなかった。
『ジムのトイレでしちゃダメよ?』
「しないわよ!」
ここみちゃんが戻ってくる前に着替え終わってしまった。
**********
ここみちゃんと更衣室を出ると、そこはすぐにトレーニングマシンが多数並ぶフロアになっていた。
窓から光が入る開放的な空間で、男女が10人ほど、お互いに言葉を交わすことなく、思い思いのトレーニングに励んでいた。
「わー、ジムですねー」
ここみちゃんがよくわからない感想を言うと、私たちを待っていたらしい女性のスタッフが近寄ってきた。
「今回ご案内させていただく永井です。よろしくお願いします」
「よろしくお願いしまーす」
「よろしくお願いしまーす」
女性でよかった、と思う反面、野沢の例もあるので油断できない。
汗ばむ白い肌に、長い髪が張り付くところ見たりするだけで、アレが来ちゃうかもしれない……
「ではこのフロア、ひと通りご案内しますね。マシンの使い方は、貼られているQRコードを読み込んでいただけると、動画で見ることができます。なので、人に教えてもらう必要はありません。どうしても必要であればスタッフにお声かけください。気になるマシンとか、やってみたいトレーニングとか、ありますか?」
え、いざ聞かれると、困るな。
「ここみちゃん、ある?」
「うーん。とりあえず全身痩せですかね。足なんて細ければ細いほどいいですから」
「間違いないわね」
「それでは……」
スタッフの永井さんに従って、体験トレーニングを始めた。




