第7話 あさりの酒蒸し 3/5
野沢が缶チューハイを口につけて、こちらを見ている。
「し、知ってた?」
「知ってたっていうか……わかる、かな?」
「わかるの?」
「わかるよ! だって珠美、こういう話題にあんまり入ってこないじゃん」
「そ、そうだっけ……」
そうだっけ?
けっこう頑張ってついてったつもりだぞ?
「珠美なんてモテそうなんだから、いつ彼氏できてもおかしくないんだけどさ」
「いやそれはないけど」
『いいぞー! 野沢! もっと言えー!』
キッチンからチハルさんが会話に参加してくる。
野沢には聞こえていないが。
「ごめん、取りあえず、なんか動画流していい?」
「うん、なににする?」
「そうねー……最近見はじめたんだけど、K-POPとか」
リモコンを触りながら答えた。
「え、意外。そんなん好きなんだ」
「前からハロプロ好きだったでしょ。職場の子に教えてもらって、なんとなく、ね」
もちろんこれはチハルさんの好みに合わせて、だ。
退屈させるのは申し訳ないので。
「ふーん。まぁ、最近また流行りだしたもんね」
野沢の言葉を聞きながら、履歴の一番上にあった動画を再生させた。
『ありがとー! 珠美好き!』
キッチンからチハルさんの声が聞こえる。
食べ終わればこちらに来るだろう。
可愛い女の子たちが歌ったり踊ったり、ステキな世界を見せてくれる。
「んでさ、私が未経験って、知ってたのね」
「う、うん、まぁ、ね」
「まぁもうそれはいいわよ。そっちからはイジりにくいだろうしさ」
時間は、いつの間にか5時半になっていた。
外は夕方の明るさが消えかけている。
「イジるようなことじゃないでしょ。経験済みったってさ、いい経験ばっかりじゃないんだし」
それは強者の理論ね。
「まーたそんなこと言って……時間かければいい経験できるなら誰だってそうするわよ」
我ながらやっかみ臭くなってきたわね。
「ごめんってー!」
「あははは! そうじゃないわよ。そんで? 結局なにしに来たのよアンタ。会えたのは嬉しいけど」
「うん。さっきも言ったんだけどさ」
すまん、もう忘れてるからもっかい最初っから言ってくれ。
「うん」
「私、男の人じゃないかも。好きなの」
ほお。




